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その後のライブは凄かった。ステージ全体が輝いて皆可愛くて楽しかった。何よりゆらたそと目が合った時、俺のテンションは最高に上がった。 ただ、今回は今までのライブと違い、真横に泡沫さんがいる。あの後「一緒にライブを見よう」と言われ、いつも最前列より少し後ろで応援している俺は泡沫さんにグイグイと手を引かれ、今はかなり前の列で応援している。兎に角アイドルが近い。少々首が痛いけど楽しい。ずっとキラキラを浴びている感覚だった。 対バンは複数のアイドルが出る為、大体30分ないくらいで次のアイドルに交代している。俺達の推しアイドルのステージが終わったら、次のアイドル推しの人と場所交代をする為に後ろに下がるのがマナーだ。 ふと、横を見ると泡沫さんと目が合う。泡沫さんの事だからステージを見ているだろうと油断してた。まさか目が合うとは思わず、すぐさま目を逸らす。 すると泡沫さんは、俺の頬に指を添わせてくるものだから、余計身体が固まる。相手はゆらたそのガチ恋厄介オタクだ、俺の応援がぬるいとか、MIXコールの声が小さいとか、そういうお小言を言われてもおかしくは無い。 覚悟を決めて、いざ受けんと構えようとしたら、思いの外やさしいタッチのまま、泡沫さんの指が俺の目元へと向かう。 「はは、ライブ見て泣いてやんの」 「は?」 そう言って頬を拭われる。自分が思っていた答えと全く関係ない事を言われ、一瞬思考がストップした。なに、俺本当に泣いてたの? 確かにライブで歌って踊って一生懸命頑張るアイドルを見る度感動しているけど、自分が泣いている事には全く気付かなかった。視界がぼやけるのも、ライブのスモークや、光の強さのせいだと思ってたから。ライブに夢中で全然気付かなかった。 「えぇ、マジかぁ……」 自分で目を擦り、濡れた手を見て落胆する。ゆらたそにレスを貰った時に俺が泣いてるのがバレてるとしたら、本当に恥ずかしい。それでも指摘せず気付かないフリをしているなら、本当に神でしかない。嗚呼、推せる。 「そんだけ夢中になれるの、スゲーよ」 「お前の推し方、気に入った」と背中を軽く叩かれる。何だこの人、ネットじゃゆらたそのガチ恋厄介オタクなのに、実際は思いの外清々しい気がする。 ……いや、ライブハウス前で小競り合いしてたからそうでもないか。 「ちょっと飲み物買ってきます」 「おー、物販までもう少しだから、早めにな」 あまり体験した事のない空気感と相手の距離の近さに耐えられず、適当な理由で抜け出した。俺も物販には行きたいし、一息ついて戻ろう。そう思ってライブハウスのロビーへ出る途中、角を曲がると目の前に人が現れる。急に止まれなかった俺は、そのまま目の前の人に激突した。 すかさず謝ろうと相手の顔を見ると、俺より先に相手は口を開く。 「あれ、さっきの……水科さん?だっけ」 「え、あ、はい!?」 名前を言われ、思わず元気に返事をしてしまう。激突した相手を見ると、相手は少し前に泡沫さんと小競り合いしたダウナーイケメンだった。 先程の騒動もあるし、あんまり関わりたくない俺は、さっさと謝ってその場から離れようと左にズレる。すると相手も俺に合わせて左にズレる。更に右に行くと、相手もまた同じ方向へ……通行人がお互い譲ろうとするが故のフェイントみたいな行動が3回程続く。クソ、これが譲り合いの日本人魂か。相手は日本人離れしたスタイルだけど、俺は生粋の日本人。 終わりが見えなかったのであえて止まってみると、相手も足を止める。俺は「どうぞ先に行ってください」と軽いジェスチャーをした。 が、なんと相手は一歩も動かない。何で? 「あの、先に進んで良いですよ」 痺れを切らして相手の目を見る。最初は口論を止めようと夢中で相手の顔をよく見ていなかったが、改めて見ると顔の整い具合が凄い。これはマスク外してもイケメンだろう。 今日は顔の良い男を間近で見る機会が多過ぎる。可愛い子を見る為に来たはずなのにおかしいな。なんて、人の顔を見てるだけでちょっと気持ちが落ちてしまう。 それにしてもこの人、近くで見て思ったけど目元が誰かに似ている気がする。これだけ顔が良いから何処かのイケメン俳優さんとパーツが似ているのだろうか。 「あ、いたいた!海星(かいせい)ぃ〜!」 突然、イケメンの後ろから死ぬ程聞き覚えのある声が響く。この声はまさか_______ 「来るのが遅い」 「ミーティング長びいて……あれ、水科君だ!」 イケメンの横からピョコっと顔を見せたのは、俺が絶賛夢中になっている最強可愛いアイドルちゃん。頻繁に現場へ行くとアイドルから顔と名前を覚えてもらえる。俺は影が薄いから覚えてもらうまでにかなり時間がかかったけど、顔が良かったり、目立つような人だと即覚えてもらえる。世の中顔とお金で回ってるんだなと実感した。 「今日も来てくれてありがと♡」そう言って可愛らしく手を振るゆらたそに俺も手を振り返す。 「……コイツ相手だと全然違うんだな」 「あれ、嫉妬?かっこ悪いぞぉ?」 つんつんとイケメンの頬をつつく吃驚するほど可愛いゆらたそ。対してイケメンは一切喜ぶことなく、無愛想な顔をしている。ゆらたそにつんつんされているんだ。もっと喜べよ。 でも、これだけ親密だと繋がっているのは間違いない。美男美女、確かにお似合いだ。性格は違うけど目元とか、雰囲気が似ている気がする。おかしいな、目の錯覚だろうか。 「あの、二人は付き合ってるんですか?」 失礼を承知でおそるおそる聞いてみた。別に俺にとってはゆらたそが付き合ってようが、パパ活してようがどうでも良い。これからもアイドルとしてのゆらたそを応援できれば良い。それでも目の前でチェキ撮影でもあり得ないほどくっついてるのを見てしまうと、二人の関係が気になってくる。もし繋がってるなら、泡沫さんの情報は正しそうだ。 俺の言葉を聞いて暫く沈黙。その後、ゆらたそがぷはっと吹き出して笑う。隣のイケメンは眉にシワを寄せて非常に不服そうだ。ゆらたそを前にしてその顔はやめろ。 「あっは!弟と付き合うとかあり得ないって!」 「ゆらりは、皆のものだよ♡」そう言ってばちこん♡と超絶可愛いウインクが俺の元へと向けられる。ライブじゃなくて、こんなところでゆらたそからレスを貰えると思わなかった、幸せすぎる。 うーん、弟さん?

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