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「きょうだい……」
「そ。よく目元が似てるって言われるけど、私はこんな目つき悪くないよねぇ」
そう言って弟さんの眉間のシワを割と強めに押すゆらたそ。弟さんの身長が高いので、割と腕を伸ばさないとイジれないゆらたそもso cute。
でも目元のジト目感は似ている。勿論ゆらたその目は大きいけど、このタレ目でもツリ目でもなく、ジトっとした目の形が最高に可愛いんだ。
「まぁ、私達が姉弟なのはどーでも良くてね」
にぱ、と笑顔を向けたと思えば、すぐさま弟の耳元で何やらコソコソとお話をするゆらたそ。因みに身長が高い弟さんへゆらたそが背伸びして耳打ちしてるわけではなく、弟さんの服の襟を掴んで下に引っ張り、強引に弟さんをしゃがませている。たまにこういう大胆かつ強い行動をするところも推せる。弟さんは顔を顰めているけど。
これなら泡沫さんの勘違いを訂正して、このギスギスした関係を解消できるじゃないか。そうすれば現場に来た人は怖がる事も無く、ゆらたそや他のメンバーにも推しが増えて、ゆくゆくは大きなライブへ______
なんて想像を膨らませている内に話が終わったのか、ゆらたそが弟さんから離れていく。
「じゃ、私は用事済んだし……水科君、また物販で会おうねぇ」
大きく手を振って遠ざかるゆらたそに手を振り返す。どうしよう、こんな神対応されてたらますます好きになってしまう。
思わぬ場所で推しと出会えて上機嫌な俺は、早速ゆらたそに弟さんがいた事を泡沫さんに伝えようと思い、先程来た道を引き返す。
が、その前に俺の腕は勢い良く掴まれ、前に進めない。
「水科さんってあの人の事、好きなの?」
掴んできた弟さんからの突然の質問に、身体と思考が一瞬固まる。推しの弟からそんな質問されると思わなかった。これで「はい!大好きです!」等と言えば弟さんには変な気持ちにさせてしまいそうだ。でも好きなのは本当だし、ゆらたそへの気持ちに嘘は付けないから困った。
「一番の推しだよ」
少し思考して出した答えは、"好き"という単語を使わず好意を表し、尚且つ"一番"をつける事によって一途な思いを表現する事に成功した。あれ、気持ち悪さが勝ってるな。
弟さんは、俺の言葉に少し考える素振りを見せる。改めて相手に目をやると、ルックスが非常に良いだけあって、メン地下にでもなったらとんでもない人気になりそうだ。姉弟でアイドルとかも良いかもしれない。なんなら二人まとめて推せそうな気さえする。
「推し……って、それはどういう好き?」
「え、いや。普通に好きって意味……」
軽く首を傾げて俺を見る。未だに腕は掴まれたままで、暫く離してくれそうにない。
「好きって事は、キスしたいとか、セックスしたいとか……そういう事?」
まさか弟さんからそんな言葉が出るとは思わなかった。今日初めて会った人によくそんな質問できるな。例えゆらたそにそういう願望を持ってる人がいたとしても、実の弟に対して馬鹿正直に答える人間はいないだろ。
「俺が好きなのはアイドルのゆらたそだから、応援できれば何も必要ないよ」
頑張ってる姿を見せてくれて、それを応援できれば良い。だからステージ外で何をしようが俺はなんとも思わない、こんな事言ったら冷たいって思われそうだから誰にも言ったことないんだけど、ぶっちゃけアイドルじゃない時はどうだって良い。俺はただキラキラ光るアイドルを、ずっと照らしたいだけ。
「それって、本当に好きなの?見返りは?お返しなんて、大衆の一人と変わらないけど」
「は?いや、好きは人それぞれだろ……」
俺のゆらたそへの気持ちを疑っているんじゃないかと思い、少し苛ついてしまう。顔は綺麗だけど中身がなんと言うか、ゆらたその弟に対してこういう事思いたくないけど、俺はちょっと苦手になりそう。最近の若者って何考えてんのか分かんなくて怖い……。いや、俺も若者の部類なんだろうけど。
俺の顔をまじまじと見つめてるのか睨んでるのか分からないが、暫くすると「ふぅん」という関心なさそうな声を漏らして、やっと俺の腕から手を放した。
「まぁ、良いや」
ぽつりと呟いたと思えば、振り向く事なく俺の横を過ぎる弟さん。歩き方はさながらモデルのような美しさだけど、結局質問の意味が分からなかった。
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