4 / 7

4.

「はぁ、弟?」 「そう、よく見たら目元とか似てて。姉弟揃って顔が良いんだって思った……」 あの後物販が終わり、泡沫さんから帰りにカフェに誘われて向かい合わせの席で話をする。 「へぇ……弟なのか」 「次会ったら、謝らねぇとな」そう言って苦笑いする泡沫さん。傍から見たら好青年すぎるムーブをかましているのを見ると、本当に厄介オタクなのかと疑ってしまうほど眩しい。 暫く話をして、泡沫さんについても色々知れた。歳は俺の一つ上の大学3年生。住んでる所はここの近くらしい。意外な事に、現場に来てオタク活動をするようになったのは俺より後だった。 会話していく内に、泡沫さんがフレンドリーで優しい人だと言うのは分かった。 ただ、物販の時不思議に思った事がある。ガチ恋勢からしたら、他人と推しのツーショは地雷なものかと思ってたが、泡沫さんは俺がゆらたそとツーショのチェキを撮るのに顔色一つ変えなかった。さらに泡沫さんは、ゆらたそとツーショではなく単体でチェキを撮っており、盗み聞きするのは良くないけれど、聞こえた会話も短く厄介オタク特有のムーブは一切していない。 ただ、推しであるゆらたそを目の前にしているのに、終始笑っている姿は1〜2回程度。正直に言うと、あのやり取りは事務的に感じてしまった。 「泡沫さんって俺の事誘ったけど、推し被りとか気にしないの?」 「え、いや。推し被りは死ぬ程嫌だけど?」 きょとんとした表情で俺を見るが、俺がきょとんとしたい。推し被りが嫌なら、何で俺を誘ったんだ。泡沫さんの事だから俺がゆらたそ推しな事くらい知ってるだろうし。謎を解消したくて質問した筈なのに、泡沫さんへの疑問がさらに増えてしまい頭を抱えたくなる。 もしかして、ゆらたそ推しではない……? モヤモヤと心残りがある中、日が暮れて解散になった。「次は現場一緒に行こうぜ」そう言って俺と泡沫さんは連絡先を交換した。 同じ界隈の人同士でライブに行く事は珍しくないから連絡先は普通に交換したけど、この人の厄介SNSはフォローした方が良いのだろうか。連絡先だけ交換してSNSでは繋がらないっていうのも不自然な気がするけど、あの厄介な投稿を見ると気が引けてしまう。 家に帰った後泡沫さんのSNSを見ると、早速今日のライブについてゆらたそのレス回数であろう数字が事細かに書かれていた。 「なんだ、この32って」 投稿されたSNSの内容を眺めていると、レス回数、チェキの対応、枚数ときて、一番下に"32"と書かれている。 なんの数字か全く分からないけど、泡沫さんが記録系の厄介オタクな事には変わりなさそうだ。 「あ」 届いたSNSの通知を見て、泡沫さんからフォローされているのに気付いた俺は、慌てて返す。泡沫さんって厄介オタクではあるんだけど、顔は良いし、性格も……SNSにの内容に目を瞑れば割と良いから、実は泡沫さんのSNSってフォロワーがそこそこいるんだよな。フォロワーの中にはアイドルや関係者もいたり、それこそ泡沫さんならアイドルと繋がることだってできると思う。けど掲示板を見てもそういう話は一切聞かないし、割と一途な人間なんだろう。 ただ、ゆらたそと俺しかフォローしてないのを見ると、変な感覚になる。 俺にだけあんなフレンドリーな訳ないだろうし、仲の良い人は他にもいると思ってた俺は、てっきり界隈の人と繋がるために別のアカウントがあると思っていたから、まさかこの厄介アカウントからフォローされるとは思ってなかった。 「次会ったときに、聞いてみるかぁ」 来週の土曜に箱の中ではそこそこ大きめのツーマンライブが行われる予定で、俺と泡沫さんは一緒に参戦するつもりだ。泡沫さんは推し被りが嫌なら何で俺を誘ったんだって話なんだけど、それも次聞けば良いか。

ともだちにシェアしよう!