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ライブの熱気がエグい。箱が大きいと人も多いから、普段のライブと規模が全く違う。
「はぁ、良すぎる……」
ライブの休憩時間、ハウスの後方で休憩しつつ余韻を感じる。スモークがまだ残っているハウス内は少しだけ靄がかり、そんなところも最高にエモい。
泡沫さんは飲み物を買いに出ているけど、それにしては帰りが遅い。多分色んな人に絡まれているんだろう。
余韻を楽しみつつハウス中を見回すと、部屋の隅っこでスマホを弄っている人に目が行く。
テディベアの絵がプリントされたオーバーサイズのパーカーと、えらく攻撃力の高そうな厚底すぎるブーツ。白いインナーの入った黒髪ウルフヘアーの細くて白い青年……
間違いない、俺を陰キャモブ呼ばわりした地雷系厄介オタクの浬君だ。何故君呼びになったかというと、事前に泡沫さんから色々情報を聞いて彼が俺より年下だと分かったからだ。流石に本人の前でいきなり君付けで呼ぶ事はしないけど。
暫く観察していると、その目立つ格好だからだろう。色んな人から話しかけられているのをよく目にする。しかし相手側は好意的に接しているのにも関わらず、浬君は素っ気なくあしらっていた。
「ねぇ、さっきからおれの事見てるけど、なに」
浬君は俺と目を合わせるなり、聞こえるように大きくため息を吐いた。見られてるのに気付いていたらしい。
「あ、ごめんなさい」
近付いてきた浬君の迫力に押される。可愛い系の見た目な割に俺より身長が少し高い。多分厚底半端ない靴のせいなんだろうけど、それよりも髪の隙間から見えた耳ピアスの量がエグすぎて、そっちにビビってしまう
「何か用あって見てるんなら、さっさと……」
「ごめん水科、遅くなった!」
何かをいいかけた途端、最悪のタイミングで帰ってきた泡沫さん。俺は顔を覆いたくなった。
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「なんでおれじゃなくて、この人と来てんの?」
「おれの方が先に誘ったよねぇ?」そう言って泡沫さんの腕にしがみつく浬君は、かなり機嫌が悪そうだ。
「だって俺とお前は推しグループが違うじゃん」
「は?泡沫が推し被り嫌いって言ってたじゃん。つーかそいつゆらり推しでしょ?意味分からん」
それは俺も意味分からん状態だ。しかし浬君がキッと睨むのは泡沫さんではなく俺。俺に非は無い筈なのに完全に目の敵にされている。
「フォロー返すのは推しと公式だけだと思ってたのに、コイツは普通に返すの何なん?」
それも俺は気になる。泡沫さんの意図が全くわからないから、例え今は敵視されてたとしても、俺と浬君ならきっと通じ合えると思うんだ。
「ほら、次の曲始まるから前行くぞ」
浬君の質問には一切答えない泡沫さんは、誤魔化す様にそう言って前へ進む。俺も後に付いていこうとした時だった。
「ぐぇッ」
突然後ろから強い力で腕を引っ張られ、咄嗟に変な声が出る。
誰かと間違えて俺の手を掴んだのだろうか、引っ張られた方に顔を向けると、ダウナー長身イケメン……ゆらたその弟さんがいた。
「久しぶり……ですね?」
ぎこちない笑顔で挨拶をする俺に、眉一つ動かさない弟さん。相変わらず何を考えているのか分からないから苦手だ。
「姉さんの応援?」
俺の手を掴んだまま話を始めるのはやめてほしい。それを言えない俺も悪いけど。
「うん。弟さんも?」
そう言うと、先程まで微塵も動かなかった表情筋が眉間を中心に動き始める。これは……不服そうな顔をしてらっしゃる!もしかして何か不味いことを言ってしまっただろうか。
「"弟さん"ってやめろ。名前あるから」
あぁ、そういう事か。確に名前があるのに弟さん呼びは失礼だったかもしれない。えーと、弟さんの名前……
「海星」
「はい、海星さん」
「さん呼びやめろ」
「……海星」
あまりの威圧に思わずさん付けしたくなるのを飲み込む。海星の眉間からシワが消えているのを見ると、この返事で大丈夫らしい。
「ところで海星、そろそろ曲始まるから手ぇ放して欲しいんだけど……」
そう言って掴まれた腕をぐい、と自分の方へ引っ張ってみる。すると、今より力を込めて握り返されてしまう。これは無理そうだ。
「こっちで見れば良くね」
「いや、一緒に応援するって約束したヤツがいるから……」
やんわり断ると、海星は3秒ほど何かを考え、再度こちらを向いた。長い睫毛から覗く形の良い瞳は、見ていると変に緊張してしまう。多分ゆらたそと目の雰囲気が似ているせいだろう。
「じゃ、連れてって」
死んでも放さない勢いで腕を掴まれた俺は、長身ダウナーイケメンを連れて、ハウスの中を歩く羽目になった。
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