45 / 46

30話 陽だまりのΩは運命を待っている。

  『あなたたちは、おれの運命じゃないと思います』    陽は前にそう言っていた。       「……俺たちは、運命だと思う?」 「え?」    陽を後ろから抱きしめて、雲雀は肩口から顔を覗かせる。陽が読書中、いつもならこの姿勢で雲雀は大人しくしている。  声をかけられた陽はきょとん、としたまま首を傾げた。   「……覚えていないくらい小さい頃に出会って惹かれ合った。離れ離れになっても、再会して、結ばれた」 「うん」 「……これって、運命ってやつだと思う?」 「うーん?」    陽は小首を傾げた後、にこっ! と朗らかに笑った。   「わかんない!」 「そっかぁ」    まあいいや、と雲雀は読書の邪魔をしたことを詫びて、また大人しく椅子になろうとすると。   「でも、大丈夫」 「?」       「運命に するの」       「……陽…」 「なぁに?」 「結婚しよ」 「……」       「もうしてるんだなぁこれが」 「あ、そうだった」    雲雀がぎゅうっと陽を抱き締める。  陽の細い指には雲雀とお揃いの指輪が、きらりと輝いている。  それを見つめて、陽はあの日のことを思い出した。    再会を果たしたあの春の日から、もうすぐ一年になる。      ***      出会った瞬間、心が弾け、溢れ出した。  亜麻色の髪、青みがかった灰色の瞳。  変わらない。おれのヒーロー。   (あ……こっち、来ちゃう……)    陽は俯いて、彼のすぐ通り過ぎようとしたらぶつかってしまった。   「大丈夫?」    何故か自分の手を離さない彼の手は大きくて、強くて、優しかった。        西校舎から陽を連れ出して、月詠はちらりと陽の様子を窺う。   「……雲雀と話さなくてよかったの? せっかく会えたのに」 「うん、いいの」    雲雀は覚えていないみたい。それでも良かった。  格好良くて優しかった。変わってなかった。  友達もいっぱいいた。雲雀には雲雀の世界があるんだ。  小さい頃みたいに、おればっかり雲雀を独り占めにしちゃいけない。  これが正しい。  でも。   (ブレスレット……)    雲雀の手が離れる瞬間、彼がブレスレットを掴んだのが見えた。立ち上がる時に床を確認したけどなかったから、雲雀が持っているのかもしれない。  どうして雲雀がブレスレットを掴んだのかはわからない。  だけど。    もしも、雲雀が届けに来てくれたら、その時は。    雲雀は月詠ちゃんと同じクラス。  だから、月詠ちゃんに渡すこともできる。  きっと、そうなる。  それが正しい。  だけど、  でも、  もしも、    雲雀が、おれのとこまで、来てくれたら    その時は。       「俺も、陽って呼んでいい?」        その時は    これを運命と呼ぼうと決めていた。            もう一度好きになって、なんて  そんな我儘は言わないから  正しく出会って、最初からやり直せたら  今度は間違えたりしないで、一緒にいられる  それだけで、いいの    この先雲雀が大切な運命を見つけて  また別々の道を歩むのだとしても  あの頃の想いは大切にしまったまま  おれはきっと、生きていける    だから、もう少しだけこのまま――           「陽♡陽♡」    雲雀が後ろから抱きしめて、何度も何度もキスを繰り返す。愛おしさと込めて。   (……あれぇ?)      運命はおれを、離す気はないみたい。       『陽だまりのΩは運命を待っている』 終幕

ともだちにシェアしよう!