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30話 陽だまりのΩは運命を待っている。
『あなたたちは、おれの運命じゃないと思います』
陽は前にそう言っていた。
「……俺たちは、運命だと思う?」
「え?」
陽を後ろから抱きしめて、雲雀は肩口から顔を覗かせる。陽が読書中、いつもならこの姿勢で雲雀は大人しくしている。
声をかけられた陽はきょとん、としたまま首を傾げた。
「……覚えていないくらい小さい頃に出会って惹かれ合った。離れ離れになっても、再会して、結ばれた」
「うん」
「……これって、運命ってやつだと思う?」
「うーん?」
陽は小首を傾げた後、にこっ! と朗らかに笑った。
「わかんない!」
「そっかぁ」
まあいいや、と雲雀は読書の邪魔をしたことを詫びて、また大人しく椅子になろうとすると。
「でも、大丈夫」
「?」
「運命に するの」
「……陽…」
「なぁに?」
「結婚しよ」
「……」
「もうしてるんだなぁこれが」
「あ、そうだった」
雲雀がぎゅうっと陽を抱き締める。
陽の細い指には雲雀とお揃いの指輪が、きらりと輝いている。
それを見つめて、陽はあの日のことを思い出した。
再会を果たしたあの春の日から、もうすぐ一年になる。
***
出会った瞬間、心が弾け、溢れ出した。
亜麻色の髪、青みがかった灰色の瞳。
変わらない。おれのヒーロー。
(あ……こっち、来ちゃう……)
陽は俯いて、彼のすぐ通り過ぎようとしたらぶつかってしまった。
「大丈夫?」
何故か自分の手を離さない彼の手は大きくて、強くて、優しかった。
西校舎から陽を連れ出して、月詠はちらりと陽の様子を窺う。
「……雲雀と話さなくてよかったの? せっかく会えたのに」
「うん、いいの」
雲雀は覚えていないみたい。それでも良かった。
格好良くて優しかった。変わってなかった。
友達もいっぱいいた。雲雀には雲雀の世界があるんだ。
小さい頃みたいに、おればっかり雲雀を独り占めにしちゃいけない。
これが正しい。
でも。
(ブレスレット……)
雲雀の手が離れる瞬間、彼がブレスレットを掴んだのが見えた。立ち上がる時に床を確認したけどなかったから、雲雀が持っているのかもしれない。
どうして雲雀がブレスレットを掴んだのかはわからない。
だけど。
もしも、雲雀が届けに来てくれたら、その時は。
雲雀は月詠ちゃんと同じクラス。
だから、月詠ちゃんに渡すこともできる。
きっと、そうなる。
それが正しい。
だけど、
でも、
もしも、
雲雀が、おれのとこまで、来てくれたら
その時は。
「俺も、陽って呼んでいい?」
その時は
これを運命と呼ぼうと決めていた。
もう一度好きになって、なんて
そんな我儘は言わないから
正しく出会って、最初からやり直せたら
今度は間違えたりしないで、一緒にいられる
それだけで、いいの
この先雲雀が大切な運命を見つけて
また別々の道を歩むのだとしても
あの頃の想いは大切にしまったまま
おれはきっと、生きていける
だから、もう少しだけこのまま――
「陽♡陽♡」
雲雀が後ろから抱きしめて、何度も何度もキスを繰り返す。愛おしさと込めて。
(……あれぇ?)
運命はおれを、離す気はないみたい。
『陽だまりのΩは運命を待っている』 終幕
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