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第六章 冬の夜 お風呂

 樹の家それ自体は珍しくも何ともないが、夜の雰囲気は新鮮だ。真っ暗で、密やかで、どこか神聖な空気さえ漂っている。   「お風呂はすぐ沸くから」 「うん」 「そうだ、着替え。オレの使う?」 「うん」    狭い脱衣所で、二人並んで服を脱ぐ。樹のネクタイを緩める仕草が妙に色っぽく、ワイシャツのボタンを外す指は繊細で、露わになる胸元はやたらと雄々しくて、些細なことがいちいち気になってしまって落ち着かない。別に、樹の裸なんて見慣れているし、服を脱ぐところだっていくらでも目にしているし、一緒に風呂に入るのも初めてではないのに。   「先、入っちゃうよ」 「う、うん」 「悠ちゃんも早く来なよ。風邪引いちゃうぜ」 「うん……」    肌色の暴力に、思わず目が泳いだ。    湯船に浸かると、二人分の体積でお湯が溢れた。昔よりも窮屈な気がするけど、それは俺達が大きくなったせいだ。ちょっと動くだけで、ざぶん、と波が立つ。   「でも思ったより余裕あるね」 「ん」 「狭くない?」 「うん」 「……くっついていい?」 「う、ん……」    そっと水面が波打ち、火照った肌が触れ合う。天井から湯気がぽたりと滴る。換気扇が唸る。   「ぎゅってしてもいい?」 「ん……」 「いい?」 「な、なんでいちいち訊くんだ」 「いいよって言ってほしいから」 「なっ……っ、い、いいよ」    投げやりに言うと、すかさず抱きしめられた。肌が触れ合うどころの騒ぎじゃない。熱いお湯を割いて、熱く濡れた肌が溶け合う。樹の温度と鼓動が、肌の表面から伝わってくる。いや、熱いのは単純に風呂のせいだろうか。頭がくらくらする。のぼせているのかも。   「悠李」 「なまえ……」 「いや?」 「……やじゃない」 「そう? 悠李好き」    樹の声には魔力が宿るのだろうか。耳元で甘く囁かれるだけで、全身の力が抜けてふわふわ浮かぶ。頭の先から爪の先までじんじん痺れる。このままずっとくっついていたら、どうにかなっちゃいそう。   「キス、していい?」 「ん、ぅ……」    いいよって言ってないのに、首筋に手を添えられキスされた。だけど、唇を食んだり舐めたりするだけで、樹の長くて厚い舌がなかなか入ってきてくれない。ちょっとくすぐったくて気持ちいいけどもどかしい。こんなんじゃ全然足りない。樹が足りない。   「も、っと……」    だらしなく口を開けて、ベロを出す。樹が笑った気がした。はしたないと呆れられたかもしれない。でも、それでもいいんだ。だって、樹が欲しくて堪らないから。山で樹が見つけてくれた時からずっと、俺の中では火種が燻り続けていて、それが今まさに燃え盛ろうとしている。   「ンむ、ふ、んぅ……っ」    差し出した舌を絡め取られ、じゅるじゅると音を立てて吸われる。その淫靡な音が浴室中に反響して、恥ずかしくて気持ちいい。もっと唾液を飲ませてほしい。甘酸っぱいレモン味には程遠いのに、どういうわけか後を引く。    舌を伸ばして、俺も樹の口の中を探った。温かい粘膜に包まれて、わたあめみたいに溶けちゃいそう。樹がいつもしてくれるみたいに上顎を舐める。ここの気持ちよさはよく知っている。樹も気持ちいいんだろうか。少し息が上がっている。   「悠ちゃ……なんか、すご……」 「んン……もっと……」 「もっとって……」    樹の掌が、胸元の突起を掠めた。そんな些細な刺激で、ビク、と腰が跳ねる。   「ぁ、そこ……」 「いい?」 「う、ん……きもちい」    どうしよう。どんどん欲しくなる。際限がない。全身隈なく触ってほしい。舐めてほしい。俺も舐めたい。触りたい。   「あっ、ァ、あ……」    焦らすような手付きで乳輪をなぞられて、それだけで恥ずかしいくらいに勃起してしまった。形のいい爪の先で、張り詰めた尖端をカリカリ引っ掻かれる。緩急を付けて引っ掻かれ、さらに固く尖っていく。胸を揉まれながら乳首を指の腹で押し潰され、潰されながらくりくりと捏ね回され、それでもなおツンと尖ったまま、樹の指先を跳ね返すほどの弾力を保っていて、それが目に見えるのが恥ずかしくて。   「ん、んン、やっ、ァ、や」 「いや?」    樹の手が止まる。切なくなって、胸を押し付けるように揺らす。   「おっぱい、気持ちいいんだね」 「き、きもち……」 「じゃあ、ここは?」    乳首を弄る手はそのままに、右手だけが脇腹を弄ぐる。くすぐったいだけなのに、なんだかぞわぞわする。   「んんっ……」 「こっちは?」    太腿を撫でられ、欲しがるように脚が開く。樹が何をしたいのかはよく分からない、けど……   「きもちい、かも……」    樹の手がすっと滑って、今度は鼠径部を撫でられる。器用な指が薄い下生えをなぞり、さらに際どいところまで忍び込んで、会陰部を軽く押される。何が何だか分からないけど、腰が勝手に浮いてしまう。   「んァ、あ、なんか、それ……」 「悠李……」    俺が声を上げると、樹の声も上擦る。湯気よりも熱い吐息が首筋を舐め、火照った肌をさらに焦らすみたいで堪らない。こいつ、俺の体で興奮してるんだ。ただ体を弄ぐっているだけで、あそこをあんなに滾らせている。腰に当たっているから分かる。少し腰を揺らして擦ってやると、樹は息を詰めた。   「っ……」 「なぁ……もっと……」    舌を出してキスをねだる。樹はすぐに応えてくれた。

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