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第7話

『タカにいちゃん、なにしてるの?』 『時計を分解してるんだ』  甘えたようなタレ目のイガグリ頭の少年が、興味津々で貴弥の手元を覗き込む。人間同様小動物にも興味のない貴弥だったが、もしもペットがいたらこんな感じだろうかと思う。 『どうして時計をぶんかいしてるの?』 『どうやって動くのか、仕組を知りたいからだよ』 『ふぅん』  少年は邪魔をしないように貴弥の隣に椅子を持ってきてちょこんと腰掛けたが、構ってもらえないのが寂しいのか目をパチパチさせ、モジモジと見上げてくる。そのチャームポイントのタレ目が、なんだか泣き出しそうに見えていじらしい。真っ赤な唇もぷっくりと、さくらんぼみたいで柔らかそうだ。 『終わったら宿題みてあげる』  そう言って手を伸ばし坊主頭をクルクルと撫でてやると、元気な子犬みたいな少年はえへへ、と嬉しそうに笑った。ふくふくした唇を指で突付くと、キャッキャとくすぐったがって手足をパタパタさせる。  本当に可愛い。いっそうちで飼ってしまいたい。部屋に閉じ込めて、毎日撫で回して慈しみたい。そんなことを思ってしまうほど、少年・上原(うえはら)恭平は貴弥の持っている宝物のすべてと引き換えにしても惜しくない、大切な存在だった。  時計は規則正しい動きとわずかな狂いも許さない正確さで貴弥を惹き付けるが、目の前の少年はめまぐるしく表情の変わるその予測のつかなさゆえに目が離せなかった。  恭平は貴弥の家の裏手、『白亜御殿』と近所で呼ばれている3階建ての白い洋館に引っ越してきた、お金持ちの一人息子だった。当時恭平は小学2年生、貴弥は3つ年上の5年生だったが、近くに同じ年頃の子供がいなかったこともあって、もっぱら貴弥が慣れない遊び相手を務めることになった。  年齢より大人び病弱で休校しがちだった貴弥と違い、活発で陽気な恭平には学校で友達がたくさんできただろう。それなのに一体何が気に入ったのか、恭平は貴弥にまとわりついて離れなかった。そして貴弥にとっても、雑誌の付録を一緒に組み立てたり、宿題をみてやったりと、恭平と共に過ごす他愛のない時間はぬくもりに満ちた癒しのひと時だった。    恭平はいつでも、貴弥の想像を遥かに超えるサプライズをもたらしてくれた。  貴弥が喘息の発作で寝込んだときは、お見舞いにと3キロ先の公営バラ園まで飛んで行って無断で摘んできた花で部屋をいっぱいにしたりとか、見せて元気を出させようと思ったのか青大将の子供を捕まえてきて貴弥の母を卒倒させたりとか、いろいろと思いがけないことをやらかした。そのたびに叱られてしゅんとなっても、貴弥がありがとう、と頭をくりくりしてやると、甘えん坊みたいな泣き目を細めてうんうん、と大きく頷くのだった。    可愛い可愛い恭平、ずっとそばに置いて慈しんでいたかった。恭平さえいてくれれば、他の誰もいらないと思っていたし、一緒に大人になっていくことを信じて疑わなかった。  そう、あの『事件』が起きるまでは

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