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第16話
切羽詰った声が囁き、有無を言わさぬ腕に体を引き付けられた。貴弥はうろたえる。
「待っ……ご褒美、って……」
「昨夜の続きだよ。お預けくらったからな。全く、あれだけ気持ちよさそうに爆睡されちゃ手も出せないって」
「そ、そんなっ、それじゃ僕へのご褒美じゃなくて、君へのご褒美じゃ……や……っ」
逃げようとするのはあらかじめ察知されていたのだろう。頑強な腕に腰を引き寄せられ、強引に唇を塞がれる。昨夜の触れるだけの可愛いキスとはまるで違う。厚めの唇に呼吸ごと奪われて、貴弥の理性は次第にぼんやりしてくる。昼日中からこんなこと駄目だと思いながらも、恭平の顔の中で一番気に入っている部分に直接触れられていると思うと、たまらない喜びに満たされる。
「貴弥さん……口開けて」
熱っぽい声で請われれば拒めるはずもない。歯列を割って入ってくる舌に、口腔を隈なく探られめまいがしてくる。怯え引っ込んだ舌を吸い上げられると、閉じた瞼の裏で火花が散った。
巧みな舌の動きに翻弄され、恭平にしっかりと密着させた下腹部が熱くなってくる。その変化は当然相手にもわかられているだろうと思うと、恥ずかしくて思わず体をよじる。
「きょ、恭平、こんなとこで……駄目だ」
「大丈夫、今日は貸切だ。誰も来ないよ」
そういうことじゃない、と訴える間もなく 背に回された手が下りて、スイムパンツのウエストにかかる。
「貴弥さんが感じてくれてる……すげぇ嬉しい。こういうの、俺どんだけ夢にみたって」
熱い囁きで耳朶を犯しながら、恭平の慣れた右手はパンツを呆気なく引き下ろし足首から抜いてしまう。
「ば、馬鹿っ、嫌だっ」
非難の声を上げても、体が裏切ってしまっている。いたずらな手は止まらない。貴弥がろくに抵抗できないのをいいことに、背後から奥の秘口にのばされた指がその入口をなぞる。勃ち上がったものは相手の腹筋で擦られ、もはや暴発寸前だ。
ともすると全身の力が抜けて水没してしまいそうな恐怖に、貴弥は手を伸ばし恭平の首にしがみついた。
「恭平っ、いや……。ここじゃ、嫌だってっ」
危うく水中で達してしまいそうな危機感にかられ、貴弥は必死で首を横に振る。
いきなり脚をすくい上げられ、全身が固まった。恭平は貴弥を抱きかかえたまま軽々とステップまで泳ぎ、プールサイドに上がると休憩用に設置してあるデッキチェアにそっと体を横たえた。強張った全身からホッと力が抜けた。
「ここだったらいいか?」
意地悪な質問に目を開けると、愛しい男が不安げに見下ろしている。
「なぁ、あんたに触れてもいいのか?」
なつっこくせがむようなその顔が昔どおりで、思わず微笑が漏れた。答える代わりに手を伸ばして背を引き寄せると、笑っていてもどこか泣きそうに見える、憂いがかった笑顔が向けられて胸がキュンと音を立てた。
「いいよ。僕も、君が好きだから」
思い切って気持ちを告げ、長い年月誰よりも自分のことを想ってきてくれた可愛い男に微笑みかけた。下りてくる相手の唇を、囁きと共に受け止める。
「貴弥……すげぇ好き。愛してる」
胸が嬉しさに引き絞られる。恋なんて本当に計算不能で、不確定で、理不尽な感情だ。なのになぜ、こんなにも心を揺さぶられるのだろう。もうそれなしでは絶対に、生きていけないと思ってしまうほど。
「は、ぁ……んっ」
恭平の唇が体の上を滑っていくたびに、喉の奥からあり得ない甘い声が漏れてしまう。胸の先を啄ばまれ舌先で転がされると、未知の感覚に全身が震えた。
「や、ぁ……もうっ……」
我慢できずに、自分の中心に伸ばしてしまう手を押さえられる。
「触ってほしければ言えよ。俺が何でもしてやるから。させて」
意地悪な声で囁かれ、全身が紅に染まるほど熱くなる。
「触って、恭平……っ、はやく……」
あられもない声を上げてねだる自分が信じられなかったが、焦らされるのはたまらない。
「ヤバイって、すげぇ可愛い……貴弥、気持ちいいのか?」
可愛いのは相手の方だったのに、全くいつのまにこんなに不届きな男に育ってしまったのだろう。文句を言おうとしたが、熱い手に中心を握り込まれ、息が止まりそうになる。たまらない恥ずかしさに固く目を閉じると、さらに熱く柔らかいものにそこを包まれる感触に、瞼の裏がスパークした。
「ひぃっ……あ、ぁっ」
恭平の口に含まれたのだと知れば、羞恥で到底目なんか開けられない。根元まで深く咥え込まれ、舌で丹念に先端を弄られる刺激に夢心地にさせられる。
唇で茎に愛撫を加えながら、後孔に伸ばされた指は慎重に入口を通り中に侵入してくる。そこはすでに、貴弥自身がこぼした蜜で十分に潤っている。
「あっ、あっ、そこ、入れるな……いやぁっ」
最初は遠慮がちだった指は次第に無礼になり、押し広げたりかき回したりしながら中を探っていく。違和感はあるが痛みがないのは、傷付けないように恭平が細心の注意を払っているからだろう。
執拗にまさぐられる秘密の部分からも未知の快感が上がってきて、経験値の低い貴弥はあえなく絶頂を迎えてしまった。
恭平の口の中に放ってしまったのを謝る余裕もなく、余韻に浸りグッタリしていると、いきなり膝を抱え上げられ身がすくむ。
貴弥の体が強張ったのを感じて、恭平が動きを止めた。
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