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第14話 照葉の日記 1
某月某日 家の模様替え
二年ぶりくらいで、夜長と同じ部屋を使うことになった。
ついでに家具を動かそうと言ったら、夜長に反対された。
師匠が味方してくれて、決行。
*****
想いが通じたのは嬉しいけれど、オレの体調は芳しくなくて、夜長がこれでもかというくらいに甘やかしてくれる。
看病されて申し訳なく思ってもいいくらいなのに、手をかけて心を砕いてもらうのが嬉しいとか、オレはだいぶダメな奴だ。
けど。
嬉しいんだから、しかたない。
オレの体調が戻るのと、師匠が塔から帰ったのは同じころだった。
塔から帰ってきていきなり「おう。家の中、模様替えするぞ」って師匠は言った。
「別に、今までどおりでもいいと思うんですけどー」
「夜中にごそごそを動き回らんですむぞ?」
「……なっ」
「バレてねえ訳ゃ、ねえだろう」
作業の日、夜長がずっとぼやいていて、師匠がそれを小突きまわしていた。
それを横目に運んできた荷物を収め直しながら、オレはかなり浮かれてる。
この家に三人で暮らすようになってから、夜長とは別の部屋だった。
それが、師匠が言いだして同じ部屋を使うことになったんだ。
この間久しぶりに使った二人部屋。
子供のころに、夜長と使っていた部屋。
懐かしいのと嬉しいのが同時に押し寄せて、わくわくしてくる。
何となく以前の通りに荷物を収めようとして、ふと、思った。
師匠は、オレ達のことを知っているわけだしなあって。
だからもういっそ、一緒の部屋にしろと言ってくれた……んだと、思う。
オレが一人で使っていた部屋は、オレの身体もこともあって、師匠の部屋の隣だったし。
この部屋は師匠の部屋からは遠い。
家のあっちとこっちだ。
多少暴れても声を出しても届きにくい。
だって子供のころに夜長とまくら投げをしていた時、オレ達をしかりつけたのは隣の部屋の兄弟子で、師匠は全然気がついていなかった。
ってことは、やっぱりそうなんじゃないかな。
よし。
それじゃあそういうことで、行動に移してしまおう。
そして始めたのは、寝台の移動。
部屋のあっちとこっちに離されていたのを、片方に寄せてしまえというわけだ。
せっかく一緒の部屋になるんだから、寝台もくっつけてしまえばいい。
「く……ぅ」
「……何やってんだお前」
「んー?」
「『んー?』じゃねえだろ。どう考えても、お前には無理な作業だし、余計なことじゃね?」
荷物を運んでいた夜長が、部屋に来て眉をひそめる。
夜長は優しいけど、鈍感だ。
気が付いて手伝ってくれてもよさそうなのに。
「照葉、お前の荷物……何やってんだ?」
「さあ?」
師匠まで入り口で立ち尽くして、一緒に首を傾げなくてもいいと思う。
オレの右足には、感覚がほとんどない。
この状態を誰にでもわかりやすく言うなら『痺れが切れまくって感覚がなくなっていてびりびりしてくる直前の感じ』だ。
感覚がないから、そこに足があるということしか感知できないし、意のままに動かすこともできない。
けど、足首を固定しておけば、何となく踏ん張ることはできる。
という状態なので、大きいものでも押し引きはできる。
が、持ち上げることは難しい。
寝台をなんとか部屋の中央まで引きずってきたところで、見つかった。
夜長に見つかって反対される前に、移動させてしまいたかったのに。
「ああ、そういうことか。なるほど。夜長、そっちを持て」
流石に師匠は察しがいい。
一瞬きょとんとしてはいたけど、すぐに夜長の手を借りて、あっさりと二台の寝台をくっつけてくれた。
「ちょ、これっ」
「照葉、これでいいんだろ?」
「ありがとうございます」
「なんで、わざわざ、くっつけてんですかっ」
「あー、これ、敷布団だけは何とかしなきゃ、間が空いてくんな……予備、あったかな」
頭をかきながら師匠が布団を探しに行く。
夜長が、もの凄い顔して、あわあわしていた。
「照葉っおまっ……」
「ダメか?」
「やっ……ダメとかじゃなくて……」
「ダメじゃないなら、いいじゃん」
「よくねえよ! こっちがどんだけ我慢してると!」
「あー、無駄無駄。そういう無駄な努力はやめとけ」
抱えてきた布団を寝台におろして、師匠が言った。
「照葉の体調さえちゃんと考えたら、俺は何にも言わねえよ? 夜中にお前がうろつくより、同衾してる方がましだしな」
「師匠っ!」
「夜中にうろつく?」
ものっすごく。
ものっすごく対照的な顔をした二人を、見比べて、オレは首を傾げる。
さっきもなんだかそんなことを言っていた。
どういうことだ?
夜長に夢遊病の気はなかったはずなのに。
「夜長は心配性だからな、夜中に照葉の様を子見に行くんだよ。特に、寝込んでる時は何度もな」
「師匠~~~~~」
「え」
夜長が首まで真っ赤になってたけど、オレの耳も熱かったから、同じような顔してたんじゃないかと思う。
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