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第15話 照葉の日記 2

某月某日 夜長の作る薬  雨。  夜長は外に行けないので、久しぶりに二人で中の仕事。  夜長が薬を作るのを見た。  性格が出ていると思う。 *****   雨の日の午後。  師匠は部屋でゴロゴロしていると言って、自分の部屋にひきこもったまま。  オレは夜長と二人、工房で作り置きの薬を作ることにした。  それぞれが一人前の仕事をしていた時はもちろん、分担するようになった今でも、出たり入ったりの擦れ違いが多くて、ゆったりと二人で作業するのは、本当に久しぶりのこと。  客も来なくて、静かな午後。  夜長は材料を出したり計ったり、動く仕事を請け負ってくれた。  長めの髪がかかって、半分隠れてしまう夜長の横顔が、好きだ。  もったいないな、全部見たいなとも思うけど、隠れているところが格好いい。 「身体、冷やすなよ」 「ああ」 「無理だと思ったらすぐに部屋に戻れよ」 「うん」  家の中の模様替えで張り切りすぎたオレは、ここしばらくまた少し微熱が続いている。  せっかく同じ部屋で一つの布団で眠れるようになったっていうのに、結局、今のところただ眠るだけ。  それでも、眠りに入る時や目が覚めた時、冷たいと感じないですむのは嬉しい。  夢も見ずに、深く眠る。  それが、こんなに気持ち良いとは知らなかった。  熱のある時は特に、うつらうつらとしていることが多くてかえって疲れていたから、深い睡眠の大切さを実感している。  もう、一人寝に戻れと言われても戻せない。  ぐっすり眠ったあとに目が覚めて、そこに夜長の体温があって、布団の中で寒いと感じることがないんだ。  起きなくちゃいけない刻限になるまで、夜長の脚に自分の脚を絡ませて、半分眠りながら遊びながら温めてもらえることが、こんなに幸せだなんて知らなかった。  夜長は夜長で作業をしているのを盗み見ながら、そんなことをつらつらと考える。  計量や分別に気は使うけれど、作業によっては手を動かすだけでいいから、薬を作るのは嫌いじゃない。  乾燥させておいた薬草をいくつか夜長に取ってもらう。  乳鉢に入れて、ゴリゴリとつぶして混ぜる。  そこそこ小さくなったところで、ふるいをかけようとしたら、夜長が手をのばしてきた。 「何?」 「何って……まだ、なんか手を加えるのか?」 「ふるいにかけておこうと思って」 「ふるい……ああ、これか。ほら」 「ありがとう」  夜長が手渡してくれたふるいを使って薬がさらさらとした粉状になったのを確かめる。  さっきから何度かあるんだ。  オレがあと一手間加えようかな、っていうときにのばされる夜長の手。  計って包むのを任せているから、出来上がったと思っているようだ。  粉砕して混ぜ合わせれば終わりってものでもないんだよ? 「照葉、これ、咳止めにするんだよな?」 「そう……って、夜長?」  呼びかけられて目を向けたオレは、夜長の手元を見て笑いそうになった。 「ああ?」 「その大きさで煮出すの?」  煮出し用の鍋に入れられた、刻んだ黄色い果実。  よくよく見れば、種子が砕かれてくっついている。 「夜長……せめてもう半分の大きさにして、種をとりのぞこうよ」 「そうか?」 「うん。種が入るとえぐみになるからさ」 「そういうものかな」  予想はついていたけれど、と、小さく笑ってしまう。  夜長は優しい。  優しいけれど細かくはない。  むしろざっくりしている。  作業も大雑把で、大体の手順があっていればいいと思ってる。  だから、夜長の作る薬は大味で飲みやすさには程遠い。  だけどそれを夜長に教えるのは、師匠の仕事だ。  と、オレは思っているから、口に出すことはしない。  自分の仕事は確実に自分でしましょう、ってことだよ。  それに、だ。  夜長が自分の手順の雑さを知って、それを直してしまって、調薬が上手くなったら、オレが困る。  夜長は「自分は調薬が下手だ」と思っているから、独り立ちをしていなかったんだから。  夜長が調薬が下手なままなら、オレはずっとそばにいて夜長の役に立つことができる。  ごめんね、夜長。  オレ、わがままなんだ。  

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