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第16話 照葉の日記 3

某月某日 師匠と夜長が行商に行く  希少な材料を仕入れるついでに、南の町の市にいくらしい。  今回は師匠と夜長の二人。  見送った。 ***** 「火の始末はちゃんとするんだぞ」 「はいはい」 「調子の悪い時は、無理に看板あげるなよ」 「うん」 「飯、食えよ」 「わかってる」 「閂、かけろよ。一人になんだからな」 「そこまでしなくても」 「か・け・ろ」 「わかった。わかりました」  色んなものを突っ込んだ背負子を前に、夜長がくどくどと小言を並べる。 小言を言い ながらも、着々と出かける準備は進んで行って、オレが留守番なのには変わりがないから、イラってする。  小言を言いたいのはこっちだよ。  師匠に世話をかけるなよとか、ちゃんと前見て歩けとか、水は沸かしてから飲めとか。  怪我をするなとか、一日も早く無事で帰ってこいとか。  さ。  今日からしばらくの間、師匠と夜長は二人で行商に行く。  ぐるりとあちこちを回ってから、南の市に立ち寄って、ついでにいくらかの材料を手に入れてくると言っていた。  この家は荒野にあって森も近くて、泉も小川もさほど離れていないところにあって、大抵の材料揃うけれど、やはり地域によってそこでしか採取できない材料もあるのだ。 「よーなーがー、てめえ、置いてくぞ!」  すっかり旅装を整えて痺れを切らした師匠が、表で大声を上げる。 「今、行きます!」 「今生の別れでもあるまいし、何、名残惜しんでんだお前らはよ! とっとと慣れろ、こんくらい!」 「はい~!」  大急ぎで背負子を背負いあげ、夜長が戸口から出て行こうとする。  オレは何となく、行商に同行できるわけでもないのに、杖を取り上げて夜長の背について行く。 「先に歩いているからな!」  師匠がすたすたと歩きはじめて、夜長が急いで続く。  オレはできるところまで見送りたくて、工房の玄関まで出て行った。 「いってらっしゃい!」  声を張り上げたら、工房から街道の方に続く道で二人が振り返って手を挙げる。  そのまま歩いていくのかと思ったら、夜長が駆け戻ってきてオレの両肩に手を置いた。 「夜長?」 「忘れ物」 「ん!」  そのまま、大急ぎでふさがれる唇。  ペロリとなめて、夜長は師匠に追いつくべく駆けて行ってしまった。 「いってきます!」 「あ……いってらっしゃい!」  いってらっしゃい、気を付けて。  無事の戻りを、待っているよ。  だから、できるだけ早く戻ってこいよな。  

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