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第7話 一の怪5

「朝じゃないですけど起きて下さい。こんな所で寝たら風邪を引きますよ」  俺の台詞に男は辺りをキョロキョロと見回す。 「あっ、ああ……ここ、外だ。コンビニ行ったら何だか疲れちゃって、途中から記憶がないや」  とんでもない事を男は言う。  大丈夫か、この男は。 「あの、起こしてくれてありがとうございました」  男はそう言うと、よっこらしょ、と立ち上がった。  そうして、左手に持っているコンビニ袋を右手に持ち変えると、左手を俺に差し出してきた。 「え、握手ですか?」  握手するシーンじゃ無いだろうと思うが、俺は拒む事も出来ずにとりあえず男の手を取った。  男の手は大きくて冷たかった。  握手が終わると沈黙が訪れる。  男の目を見ながら、俺は何だか気まずい気持になる。  男同士で見つめ合っていても仕方がない。  俺は、このまま部屋へ帰ることにした。 「あの、じゃあ、俺は行きますけど、大丈夫です?」  俺が言うと、男は「あ、はい、俺の部屋、ここなんで」と、コツリと408号室の玄関扉を手で叩く。  この男、やはり隣人であるらしい。  こんな変わり者が隣人か。  地味に落ち込むな。 「あ、じゃあ、俺はこれで」  俺が速やかにこの場を立ち去ろうとすると、「あ、ちょっと待ってください」と、男に呼び止められた。  男は、コンビニ袋をガサゴソ漁り、ペットボトルを取り出すと俺に差し出す。  思わず受け取ってしまったが、何なんだ。 「あの、何ですか?」 「ポカリです」 「それは見れば分かりますけど、何でこれを俺に?」 「ああ、あなた、お酒臭いですよ。良かったらそれ飲んで酔いを醒まして下さい」 「え、あ、ああ、そうですか。ありがとうございます」 「いえ、じゃあ、おやすみなさい」 「あ、おやすみなさい」  俺は自分の部屋へと戻る男の姿を見送った後、片手にあるポカリを見た。 「…………」  あの男、まあ、悪いやつではないみたいだな。  部屋でシャワーを浴びて濡れた髪もそのままに、俺は寝室のベッドへと身を沈めた。  引っ越しを機に家具などを新しく買い替えた。  このベッドも新しくした物の一つだ。  こだわって買ったベッド、寝心地は中々だ。  新しくした枕もふかふかで、同様に新しいシーツも気持ちがいい。  俺はやっと落ち着いた気持ちになった。  疲れと酔いのせいか、何だかとても眠い。  明日は仕事も無い。  俺は昼間まで寝てやるつもりで  目覚ましをかけずに重い瞼を閉じた。  どれくらい眠っていたのだろう。  妙な寒気を感じて目を覚ました。  辺りはまだ暗い。  何だか喉が渇いて仕方がないのだが、酒のせいだろうか。

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