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第9話 一の怪7
すると、優男はハッとした顔をして、「あの、君、もしかして、僕のことが見えているんですか」と言った。
見えていますとも。
俺は、何とか返事をしようとしたが、声が出なかった。
体も動かないので頷く事も出来ない。
仕方が無いので唯一動く目をパチパチさせて優男に合図を送った。
すると、優男は、ああっ、と声を漏らし「金縛りに掛かってるんですね。すみません、そんな事するつもりじゃなかったんですけど。今解きますから」と言う。
俺の体から一瞬、ガクリと力が抜けて、そして、縛り付けられるようだった体が自由になる。
さっきまで感じていた喉の渇きも嘘みたいに消えた。
金縛りが解けた。
俺は、首を上げて改めて、俺の体に覆い被さっている男を見てみる。
年齢は若そうだ。
襟足で切りそろえられた黒い髪に、白い顔。
赤い縁の眼鏡を掛け、胸にポケットの付いた黒い長そでのシャツにピタリとした黒のジーンズ姿の優男。
やはり、こんな男に見覚えは無い。
優男は俺の体に乗ったまま、珍しい物でも見る様な顔で俺の顔を覗き込んでいる。
「お前は何なんだよ。泥棒か?」
夢と分かっていてもつい聞いてしまう。
「やっぱり僕のことが見えるんですね。自分のことが見える人に会ったのは初めてです」
嬉しそうに優男が言う。
しかし、俺の方は嬉しくとも何ともない。
むしろその逆、夢の中でこんな見知らぬ男の姿を目にしたからと言って、喜ぶことは何も無い。
ウザいだけだ。
「とにかく、俺の体から離れてくれ。つか、あんた、何で人の体の上に乗ってんだよ」
「す、すみません。君から心地の良い気を感じて。そうしたら、君の体に吸い付く様に乗っていたんです」
「何だよそれ。いいから早くどいてくれよ」
俺はウンザリとそう言った。
「はい、すみません」
優男は申し訳なさそうな顔をして、俺の体から離れると、ベッドの端に正座をした。
願わくば、ベッドからも降りて欲しいものだ。
俺はため息を一つついて、上半身だけ起こし、ベッドの横にあるサイドボードの上に載った煙草を一本抜きとる。
ライターで煙草に火をつけ咥えて息を吐き出すとふわりと煙が部屋に広がった。
煙草の味が夢とは思えないほど苦く感じる。
「で、お前は何なんだよ。泥棒なら悪いけど取る物は何も無いぜ」
引っ越したばかりで財布はすっからかんだ。
「泥棒じゃありません。僕は、あの、霊です」
優男がそう答える。
「はぁ? 霊だって? そんなのいる訳ねーだろ。寝ぼけてんのか、あんた」
思わずそう言ったが、寝ぼけているのは俺の方だ。
何ちゅう夢だ。
霊と来た。
まあ、さっきまで黒い煙でいた事からも、こいつが普通の人間ではない事は確かだろう。
だが、霊か。
この俺が霊を見るなんて、エセ拝み屋何て仕事をしている報いなのか。
しかし、案ずる事無かれ、コレは夢だ。
夢から覚めればこの男ともおさらばだ。
「あんた、本当に霊なのか?」
念を押して訊いてみる。
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