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第27話 一の怪25
「彼女さんが、そんなに電話してくる理由って何なんですかね」
同情された喜びに浸る俺に、甲斐が真顔で訊いてくる。
「理由、ですか」
「ええ、そんなに電話してくるってことはよっぽどの理由があるはずなんじゃないかと思うんですけど。心当たりはないんですかね、その、お友達の方に」
理由、それは明白だった。
「理由は、友達が彼女との約束を守らなかったから……ですよ。それで、彼女は怒って毎日、嫌がらせのために電話をしてくるんです……多分」
多分どころか確実だ。
彼女……もとい、ゴトウさんは俺が約束を破ったことを怒るどころか恨みに思っている。
だから毎日あんな嫌がらせをしてくるのだ。
あいつ、おとなしそうな顔をして、いや、おとなしいからこそ、か、やることが陰湿すぎる。
こんな事になるとは思いもしなかった。
ゴトウさん、中々の悪霊だ。
あいつ、約束を破った相手にリベンジ続ける元気があるなら成仏も一人で出来るんじゃないか。
心の中で毒づく俺に、「理由がはっきりしているならいいじゃないですか」と、甲斐が言う。
「どういう事です?」
素直に俺がそう口にすると、甲斐は少し目を細めて話し出す。
「だから、その約束を守ったらいいんじゃないですか。約束を守らなかった事に彼女さんが腹を立ててお友達に電話をして嫌がらせみたいな事をしているんだったら約束を守ればいいんですよ。そうすれば彼女さんの怒りも治まって一日中電話するなんて事も止むんじゃないですか」
確かにその通りだが、しかし、だ。
「約束を守る事で彼女のご機嫌を取れって事ですか」
渋い顔をする俺に、甲斐は、「そうです。それしかないんじゃないですか」と答えた。
約束を守れと甲斐はそう言うが、しかし、彼女、もとい、ゴトウさんのご機嫌取りの為に面倒な約束をわざわざ引き受けるなんて真似はしたくはない。
引き受けたが最後、俺はあのゴトウさんの恋のキューピッドに成り下がってしまうんだ。
そんな一文の得にもならない事をこの俺がしなければならない理由がどこにあるのか。
それに、こっちは約束を反故にする事をちゃんと謝った。
なのに、あの男と来たら「恨みます」って、何なんだよ。
恨むなら、生前、好きな相手に告白も出来なかった自分の根性の無さだろ。
そもそも、あいつ、もう死んでるくせに、未練たらしく恋の悩みで成仏できないとか、どれだけ女々しいんだ。
死んだのは気の毒だが、死んでもなお、成仏もせずに俺の部屋に居座り、この俺に迷惑を掛けて、その迷惑の理由が恋の悩みの協力を断られたからとか、どれだけわがままなんだ。
何だか、ゴトウさんへの怒りがこみ上げてくる。
俺は、何であんなやつにこんなに悩まされなきゃならないんだ。
「あの、甲斐さん、約束って、本当に守るべきなんでしょうか。その、もしも彼女の約束がとんでもないことでも、守らなきゃならないんでしょうかね」
死んでいるやつが恋の悩みとか、どうしようもないだろ。
「はぁ、とんでもない悩み、ですか。お友達は彼女さんとどんな約束をしたんです?」
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