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第28話 一の怪26
「うっ!」
それは言えない。
友達と彼女の話でたとえ話を話しているのに、恋の悩みに協力する約束とは言えやしない。
しかし、仮の話を考えるにしても、俺の頭の中のフィクションを考える所がもうオーバーヒートを起こしていて何も思いつかない。
「そ、そこまでは、ちょっと。友達の話ですから」
焦る俺を目の前に甲斐はそっけなく、そう、と言った後、ゆっくりとした動作で指を絡めて組んで、「あのね、この場合、やっぱり約束は守るべきだよ」と、淡々とそう言う。
「何で」
俺は前のめりになる。
テーブルに俺の体が触れて、テーブルが揺れ、カップに波紋が出来た。
その波紋が消えるタイミングで甲斐が口を開いた。
「だって、そもそも彼女との約束でしょ。何でそれが守れないんですか。彼女のこと愛しているなら約束を守る事なんて何でも無いことじゃないですか。それに、出来ない約束なら初めからしなきゃ良かったんだ。約束を破られた事でしつこく電話してくる彼女さんもどうかと思うけど、そうするだけ、彼女さんには大事な約束だったって事でしょ。そんな約束を守ることも出来ないで彼氏やってる、そのお友達もたいがいどうかと思いますよ。約束するだけしておいて後になって約束できないとか言い出すって、随分と自分勝手な友達がいるんだね、あなた」
うっ。
あんた、俺も悪いと、そう言いたいのか。
そうは言わせねーぜ。
「確かに約束を破った友達も悪いとは思いますし、自分勝手と言われても仕方ないですけど、成り行きで約束をしてしまうって事って、あるじゃないですか。それで、後になって、やっぱりその約束は守れなかった、みたいな。あなたにはそういう事はないんですか」
これでどうだ。
「無いな。俺は人との約束はあんまりしないんで」
撃沈。
「うっ、まぁ、あなたの事はともかく、友達だって、何も好きで約束を無かったことにしたわけじゃないですから。それに、俺はどんな場合でも約束は必ず守るべきとは思わないです。出来ない約束なら断ってしまった方が相手の為にもなる事ですよ」
どうだ、これもまた正論だろう。
俺のこの台詞を聴いて、甲斐は、「うーん」と声を上げてから、組んだ手に顎を載せて黙ってしまった。
甲斐の顔は困惑している風だった。
さすがに、この男もこれ以上は何も言えないか。
どうやらこの勝負、俺の勝ちのようだな。
心の中で、ほくそ笑む俺に、甲斐が突然、でも、と声を上げた。
「何ですか」
これ以上何の話があるって言うんだ。
「いや、愛している彼女との約束でも本当に守る必要無いです?」
困惑気な表情のままに甲斐は俺を見つめる。
俺はと言うと、思いっきり顔をしかめていた。
あんな悪霊に対して愛情なんて湧くかよ。
「愛情なんて、そんなのあるわけないじゃないですか」
俺はつい我を忘れてこんな台詞を吐いた。
俺の台詞に甲斐が眉をひそめる。
「どういう事、それ」
低い声で甲斐が言う。
「えっと、その……」
言葉に詰まる俺に、鋭く目を尖らせた甲斐が言う。
「お友達は彼女さんのこと愛してもいないのに彼女と付き合っているって事ですか」
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