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第29話 一の怪27
俺の発言からしてそうなるな。
「えーっと、いや……」
「要するに、愛してもいないくせに、彼女さんと大事な約束をしておいて、それを守れないとかとぼけているわけですよね、そのお友達は」
この言われ様。
今、俺の顔色は相当悪いだろう。
「……そうっすね」
俺は首をガクリと落とす。
甲斐はため息を吐き捨てる。
「最悪だな。お友達は、約束は守って彼女さんとは別れる事だな。彼女さんは毎日電話しなきゃいられないほど約束にこだわっているんだ、そうすべきだろ。それが綺麗な別れ方でしょう。彼女さんとの約束を守れないなら、こう言っちゃなんだけど、あなたのお友達はただのクズです。そうでなくてもゲスですよ。あなた、何でそんなゲス野郎と友達なんです?」
な、何だって。
こいつ、ゲスとかクズとかそこまで言うか。
俺は顔を上げて甲斐を見た。
「……別に、勝手じゃないですか、俺の交友関係なんか。あんた、人の友達の事、クズとかゲスとかよく顔色一つ変えずに言えますね。あんたに、俺の話を聞いただけでどうしてそんな事が言えるんです?」
「そりゃ、言えますよ。女の約束一つ守れない様な男でしょ。付き合っておいて、女一人を満足させられないような男、男らしさのカケラも感じられないよ。ただ……」
「ただ、何だよ」
「そのお友達が彼女さんとの約束を守りでもして、彼女さんがその結果に満足でもしたなら、俺も、お友達のこと見直しますけど。何なら、お友達の前でディスってごめんなさいって土下座でもしますよ。でも、現段階では俺にとっては、お友達はただのゲス男ですよ」
甲斐の台詞に俺の頭に血がカッと上る。
俺は無意識にテーブルを両手で叩いていた。
バンッと言う音が部屋に響き、甲斐が目を丸くして俺を見る。
俺はテーブルを叩いた勢いで甲斐に人差し指を突き付ける。
「今の台詞、忘れるなよ。つまらない約束なんざ、きっちり守ってやるぜ。結果も出してやる。その代わり、もしそうなったなら、あんたには土下座をしてもらうからな!」
場がシーンと静まる。
甲斐は口を、あんぐりと開けて俺を見ている。
しまった。
頭に血が上って完璧に演技を忘れていた。
「いや、あの、友達が?」
俺は今更白々しい事を言う。
「……分かりました。そこまで言うなら、俺も土下座しましょう。お友達が彼女さんの約束を果たす事、そして、彼女さんに満足してもらえる事を楽しみにしています」
甲斐はそう言うと俺の顔を見て不敵に笑う。
俺はの方は逆に顔をしかめてクロワッサンにかぶりつく。
そんな俺の姿を見て、甲斐は少し笑ったが、俺はそれには気付かないふりをしてクロワッサンを、しかめ面で食べ続けた。
この後、俺達は何事も無かったかの様に、しかし、特に話す事も無く黙ってコーヒーを飲み、クロワッサンを食べた。
甲斐は俺にコーヒーのお代わりを勧めたが、俺はそれを断り、甲斐の部屋を出た。
外は晴れていて、雲一つ無い。
俺は、直ぐに自分の部屋の玄関の前に向かうと、拳を握り絞めてそこに立つ。
甲斐、こうなったら、やつの土下座を必ず拝んでやる。
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