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第31話 一の怪29
ゴトウさんの目からは次から次へと涙が溢れて出ている。
「いや、話したいけど、あんた泣き止めよ。あんたがそれじゃ、話もできねーよ」
「ううっ、だって、自然と涙が出てくるんですよ。君が約束を破ったせいで、僕の心は滅茶苦茶です。君は泣き止めと言うけれど、もう、泣く以外に何も無いじゃないですか」
そう言ってゴトウさんは鼻を啜った。
ああ、男が約束を破られたくらいでメソメソと。
イラつく事この上ない。
だが、今は我慢だ。
ここでイラついては折角姿を現したゴトウさんを逃してしまう。
イラつくのは話が済んだ後だ。
「その約束の事で話があるんだよ。だから泣き止めよ」
「そんな、言われて泣き止めるくらいなら初めから泣いたりなしですよ、うううっ」
ゴトウさんはそう言うと、大声で泣き出した。
あーっ、もう、めんどくせーおーとーこーだーなぁー。
「なら、そのままでいい、聞けよ。あんたの約束守ってやるよ」
単刀直入に俺は言った。
「ふぇ?」
間の抜けた声を上げて、ゴトウさんは涙を流したまま、眉を寄せ、俺の顔を見る。
「片葉君、今、何て?」
「だから、約束、守るって」
ゴトウさんは口をあんぐり開けたまま動きを止めた。
ゴトウさんはピクリとも動かない。
「おい、大丈夫かよ。どうしたんだよ」
俺がそう言うと、ゴトウさんはやっと口を動かして、「だ、大丈夫です。あの、もう一度言って貰えませんか。ちょっと、君が何を言っているのか理解できなくって」と、眉間に手を当ててそう言った。
俺は、ため息を漏らしてからゴトウさんの耳に口を近づけて「約束、守ってやる。あんたの心残り、晴らしてやるよ」こう言ってやった。
「そんな、うっ、嘘」
ゴトウさんは目をパチパチさせる。
「嘘じゃねーよ。本気で約束守るから」
「どうして急に、そんな」
どうしても何も、理由はあの甲斐だ。
あいつ、人のこと、クズとかゲスとか散々言いやがって。
あいつの土下座を見ない事には俺のプライドが許さない。
「事情が変わったんだよ。とにかく、約束は守るから。片思いの相手の事知りたいって言うなら調べてやるし、その相手にあんたの気持ちを伝える事にも協力してやる」
ゴトウさんは信じられないという様な顔をして俺を見ている。
ゴトウさんの目つきは完璧に俺を疑っている目だ。
「何て言ったらいいか。あの、本当に良いんですか? 後になってやっぱり止めるとか言い出さないですよね?」
やっぱり疑っている。
俺の事が信用ならないという事らしい。
だが、それも仕方のない事だ、俺は一度、ゴトウさんとの約束を破っているのだから。
「もし、今度、俺があんたの約束を破る様な事があれば俺のことを取り殺すでも何でも好きにすればいいさ。俺は、絶対に約束は守るから、心配するな」
ゴトウさんとの約束を守って成仏させて、絶対に甲斐に土下座させてやる。
「本当に、本当、ですね?」
「ああ、本当の本当だ」
「信じていいんですね?」
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