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第42話 二の怪8
女は驚いた声を上げて振り返り、歪んだ顔で俺を見る。
「あの、あなた、さっき電車の中で、南……男の人の事を、ずっと見ていましたよね」
問い詰める様にして、俺は女にそう訊いた。
女は、歪んだ顔をさらに歪めながら、「は、男?」と言った。
「見てたでしょ、あなたの前にいた男の事を、何でなんですか?」
女は、ああ、と言うと「別に、ただ何となく見てただけよ、それだけよ」と答える。
「ただ見てただけ?」
「そうよ、ただ見てただけよ」
「あの、彼のことは、以前から知っていて見ていたんですか?」
「はぁ? 知る訳無いじゃない。初めて見たわよ。何なの、あたな、何なの? 人を呼ぶわよ!」
女は喚く。
俺は速やかに女から離れると、発車を告げている電車の中へと戻った。
俺が電車に乗ると、扉は直ぐに閉まり、電車が滑らかに走り出す。
窓を見ると、先ほどの女の唖然とした顔が流れて行った。
窓から顔を離し、後ろを振り返ると、葛と目が合ってビックリする。
葛も俺の顔を見てビックリしている。
「片葉、お前、どうしたんだよ、何で、電車の外から入って来たんだよ」
葛が小声で言った。
「いや、南のことを見てた女を追いかけて電車の外に出てた」
小声の葛に合わせて俺も小声で言う。
「マジかよ」
「マジだ。それで、女から話を聞いてみた」
葛は、また、マジかよ、と言った。そして、「どうだった」と訊く。
どうだったとは、つまり、あの女が南のストーカーかという事だろう。
「うーん、何か違うっぽかったな。南の事はただ見てただけ、だと」
「そうか」
葛は残念そうな顔をする。
俺はグループチャットで女の事について、葛に話した通りに報告する。
そうしてから、葛に質問した。
「葛、ところで、南は?」
ここから南は見えるのか。
「あそこにいるぜ」
葛が指さす方を見ると、少し遠い位置に南が見えた。
平川の姿もチラリと見える。
おいおい、嘘だろ、こんな場所からじゃ、南と南の周りが良く見張れない。
葛は何をやってるんだ。
電車は混んでいて、これでは移動する事もできない。
ああ、葛という男は探偵には向くまい。
俺は、ため息を葛にばれないようにこっそりと吐いた。
こうなったら平川が頼りだ。
しばらく頼りの平川からの連絡がグループチャットに何件か入った。
平川いわく、南を見ているやつが何人かいて、その誰もが怪しく見えるとの事だった。
南という男はどうも人の目を引くらしい。
こんな調子で南が降りる駅まで電車は来た。
南が電車を降りたので、俺達も降りる。
結局、怪しいやつは何人かいたが、南のストーカーらしき人物は見つからなかった。
『これからどうする』
平川がグループチャットで訊いて来る。
どうするも何も、ここまで来て解散だなんて事も無いだろう。
俺は、目の前の葛に、「このまま南の家までついて行こうぜ」と言った。
葛は頷く。
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