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第44話 二の怪10

『相手が直ぐに行っちゃったし、なんか、俺、テンパっちゃって。しっかりとは見れなかったけど、男だったよ。なぁ、片葉、あいつがどうかしたわけ?』 『さっきのやつが、南の事、見てたっぽいからさ』  俺が、そうグループチャットにメッセージを入れると、友人達から、マジかよ、とざわついたメッセージが送られてくる。 『少しだけど、顔は確認したから、後で似顔絵描いてグループチャットに貼るわ』  南がナイスアイディアを言う。  俺達は念のため、辺りにまだ怪しい奴がいないかチェックする。  俺達が大丈夫そうだと判断すると、南は家へ帰る事になった。  解散だ。  すっかり日が暮れた。  疲れが防波堤に迫る波のごとく押し寄せた。  これがしばらく続くのかと思ったら寿命メーターが縮んだ気がした。  その日の夜のこと。  俺は自分の部屋のベッドの上で、グループチャットを開き、南から送られて来た例の怪しい男の似顔絵の添付写真を眺めていた。  南の似顔絵は、めちゃくちゃ上手かったが、南の言っていた通り、相手の事はしっかりと見れていなかった様で、上手いけど、いまいち、ぼやけて誰だか分からない感じだった。  たった一つ、男の被っている帽子だけは、しっかりと描かれていて、それは、黒のキャップで、前の方に白い字でbig hungryと書いてある帽子だった。  big hungryとは、凄い文字センスだ。どう受け止めていいのか分からない。  俺は肩を落とすと布団の中に潜った。  この時はまだ、南の描いた似顔絵が功をなすとは夢にも思っていなかった。  南のストーカー探しを始めて十日。  俺達は下校途中、南の後を付け、南の周辺に目をギラギラ光らせてストーカーを探した。  そりゃもう、俺なんかは子供の頃に夢中でやった小さく絵描かれた物や人の中から目当ての人物を探すというゲーム以上に夢中に探した。  その結果、俺達は気付いた。  南と南の周辺を見張った十日間の内、実に七回、南の描いた似顔絵の男を南の近くで見かけたのだ。  あの帽子。  あの帽子をかぶった男が、ある時は南の乗る電車の中に、またある時は南が寄った本屋に、そしてまたある時は、学校の校門の前にいて、南が校門を出ると、そろりと南の後をついて行った。  南の団地でも、見かけた。  やつは、南の住む棟の近くに大体いて、家へ向かう南のことをジッと見ているのだった。  これはもう、間違えないと思われる。  南のストーカーは、この、big hungry帽をかぶった男だ。  ストーカーを突き止めた俺達。  作戦を次の段階に動かす時がついに来た。  ストーカーを捕まえる。  そして、一発殴ってやる……のは俺の独断。  この時俺は、十日間も探偵ごっこをさせやがって、見てろよ、と、ストーカーに対して闘志がメラメラと燃えていたのであった。  相談の結果、ストーカーを捕まえるのは、やつが学校の校門の前で南を待ち伏せしている時に、という事になった。  学校周辺は勝手知ったる俺達の庭。  そこで上手い事、やつを学校の裏にある学校の塀とのビルの裏手に挟まれた袋小路まで追い詰めて、やつを捕まえ、まずは話を聞こうって寸法だ。  それから先は、こちら次第だ。

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