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第55話 三の怪5

 どうしてこんな所で熟睡出来るのか。  気が知れない。  俺はだんだんイライラしてきて、両手で甲斐の肩を力を込めて掴むとガクガクと肩を揺らして、あくまでもご近所迷惑にならない程度に多少大き目の声で「起きろ!」と言った。 「うーんっ……むにゃむにゃ……」  甲斐の口から気怠そうな声が漏れる。  むにゃむにゃって……。  俺の苛立ちメーターがグッと上がる。 「おい! おい! 起きろ! あんた、こんな所で寝てたらヤバいだろ! 起きろよ! このっ!」  再びガクガクと甲斐の肩を揺さぶる。  甲斐の首が前後に、コクコクと揺れている。  こんなに揺さぶられているのにまだ起きる気配は無い。  睡眠王選手権の王者か何かか?  俺の苛立ちは最高潮に達する。  もはや苛立ちメーターはマックスを越えた。 「起きろよ! この睡眠魔!」  そう大声で言って甲斐の肩を盛大に前後に揺らした。 「んんんっ……」  再び声を漏らすと甲斐はうっすらと目を開いた。  やっと起きた。  やれやれ、と俺は思う。  甲斐は俺の顔をボーッとした顔で見た。 「甲斐さん、こんな所で寝ないで下さい。風邪引きますよ」  俺がそう言うと、甲斐はすっくと立ちあがった。  中腰だった俺も立ち上がる。 「あの、これ、借りてた服で……」  手の中で皺くちゃになっている甲斐の服を俺が甲斐に差しだそうとしたその時。 「お前、うるさい!」  そう言った次の瞬間、甲斐が俺の両肩をがっしりと掴んだ。  甲斐の目は座っている。  思いっきり不機嫌って顔だ。 「え?」  俺は不審に思う。  急にどうした?  寝起きが悪いタイプか?  そう俺が思ったその時、事は起きた。  俺の唇に柔らかいものが、スッと触れたのだ。  その正体を知るのに数秒時間が掛かかった。  ようやくそれが何なのか分かった時の衝撃といったら半端無かった。  何せ、俺の唇に触れているのは甲斐の唇だったから。  俺は甲斐にキスをされている。  何で?  頭が真っ白だ。  甲斐のキスは続いている。  ようやく、はっとした俺は抵抗を試みる。 「んんっ」  甲斐から逃れようと、やつの肩を力いっぱい押した。  しかし、甲斐はびくともしない。  キスで唇を塞がれてかすれた声しか出せない。 「むむむっ」  激しいキス。  呼吸をする事を俺は忘れた。  甲斐の唇がグイグイと隙間なく俺の唇に押し当てられてる。  苦しい。  しばらくもがいていると、スッと甲斐の唇が離れた。  一気に空気を肺に吹き込むと、俺は「何するんだよ!」と叫んだ。 「うるさい。黙れ!」  そう言うと甲斐は再び俺にキスをした。  俺の背中は甲斐の部屋の玄関扉にピタリとくっ付いていた。  凄い力で甲斐に抑え込まれている。

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