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第13話 精液採取

 男はベッドを降り、壁際に置かれた巨大な宝箱のようなものに近付くと、蓋を開けて小瓶をしまった。そして、次に別の小瓶を取り出す。 「これはイツキが初めて射精したときの。何より特別だから多めに取ってもらったんだ。……覚えているかな?」  俺の……初めての……?うげぇぇ、気持ちわりぃ。何言ってんだよ、こいつは。  いや、ってか何で?どういうこと?だって、俺の初めては――  脳裏に浮かんだのはいつも行く病院。小学生だった俺は、体調も悪くないのに父さんに連れられてそこを訪れていた。俺のかかりつけ医の先生は、いかにもって感じの眼鏡の優しいおじさんだった。  ズボンとパンツを脱ぐように言われて、恥ずかしかったけど、お医者の先生には絶対に逆らっちゃいけないって教えられてたから、俺は父さんに手を握られて、先生にはチンコを……。 「そ、そんな……でも、あれは……」  ガラガラと何かが崩れ落ちていく。 「だって、あの時は父さんが……先生が……」  目の前の男はうっとりとした顔のまま小瓶にキスをすると、俺の方を見てニヤリと笑った。 「そしてこれは初めての自慰のときの。それからは100回記念ごとに取ってあるよ」  目の前が真っ暗になるような気がした。宝箱の中は見えなかったが、俺の頭の中にずらりと並ぶ小瓶が浮かぶ。今まで一度もおかしいとは思わなかった。オナニーしてしばらくすると、何だかんだ理由を付けて母さんが部屋に入ってきてたことも、強引にゴミ箱を回収されることも。  だって、母親ってそういうもんなんだろ?それに俺の母さんはものすごく綺麗好きで、口うるさかったけど皆に家を褒められて自慢だったから、一回もゴミ回収に逆らったことはなくて……。  それに父さんだって。仕事は忙しかったけど、俺との約束は一度も破ったことがないくらい誠実で、嘘が嫌いな人で……心の底から尊敬していた。  本当の両親じゃないことは昔から知ってた。でも、そんなのどうでもよくて、今でも俺は父さんと母さんのことを……。

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