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第15話 乳首舐め

 声を上げて堪るか。こいつの思い通りにさせて堪るか。馬鹿な奴。頭のイカれた変態め。男の俺がそんなとこ舐められて何か感じるとでも思ってんのかよ。  ピチャピチャという水音と荒い息遣いが部屋に響く。男は俺の右胸に顔を埋めて、どうやら乳首を舐めているらしい。 「んっ……う゛っ……」  漏れる吐息を抑えようとすると、ギリッと硬いものが擦れる嫌な音が脳内に直接聞こえてくるような気がした。噛み締めた奥歯が割れそうで、顎が痛い。  クソ。別のこと考えろ。何か別のこと……そうだ、大学。大学行かなくて大丈夫かな。公共哲学の代返はたぶん金本達がやってくれるよな。ちゃんとレジュメも取っといてくれるかな。あ、あと、今日のバイトは―― 「ぐっ……んふぅっ……」  ビクッと体が跳ねて思考が中断される。針で突かれたような痛みがあり、俺はぎゅっと目を閉じた。  バイトは、バイトは、今日……たしか……シフト被ってるのは中田さんと―― 「……っんう……!」  硬いもので挟まれた後に強く吸われる。俺は堪え切れずに体を捩ろうとするが、思うようには動けず、手足についたベルトが否が応でも現状を伝えてくる。思い浮かべていた友達の顔、講義室の光景、バイト先のカフェ、先輩の顔、そういったものが全て黒く塗りつぶされていく。  ダメだ。何も感じない。俺は何も―― 「……っああぁっ……!」  強い痛みに腰がのけ反り、俺はついに声を上げてしまった。一度そうなってしまえば後は地獄で、次から次へと波のように刺激が押し寄せてくる。 「いっ……んんんっ!……ん、あぁっ……」  唇を噛んで男の顔を見る。憎くて憎くて堪らないその顔を見れば、一気に体も萎えるはず。 「……えっ……」  ゾクッと背筋に冷たいものを感じ、望み通り俺の体は熱を失った。しかし、それは憎らしさのせいではない。男の見せた笑顔が余りにも嬉しそうで、余りにも冷酷なものに見えたから……。 「愛しいイツキ。本当に君は無垢で愚かで……僕を誘う天才だ。我慢比べはもう終わりかな?」  そう言うと男はヌラヌラと湿る口元を親指で拭い、ゆっくりとその身を起こし始めた。

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