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よくできました 15
珀英が嬉しそうに、本当に安心したように、体中で深く息を吐き出してにっこりと笑うと、またぎゅーっと抱きしめてきて。
珀英に抱きしめられるのは好きだし、暖かくて安心して好きなんだけど、こういう時は苦しいくらいの力で抱きしめてくるから、正直困る。
苦しいから嫌なんじゃなくて・・・珀英の熱が浸透してきて、細胞を通って侵食して、血管を通って血液が熱くなって、そのまま全身に熱が行き渡って、体が火照(ほて)って発情してしまう。
「珀英・・・苦しい」
「あ、すみません!」
珀英が慌ててオレを放して、申し訳なさそうに瞳を伏せてしまう。
さっきまでブンブン振ってた尻尾が、またしゅん・・・と下に落ちていて。
まったく、何度これを繰り返すつもりなんだ。
オレはお腹の奥底が疼(うず)いたのを感じながら、誤魔化すようにくすりと笑った。
「ったく・・・しょうがないな」
「すみません・・・」
オレが呆れた声で言うと、珀英がますます萎(しお)れて、全身で落ち込んでいるのがわかってしまって。
きちんとお座りしているけど、耳は垂れて、尻尾はくるりと巻いて、地面をじっと見ている犬。
本当に・・・こっちの庇護欲をかきたてるし、何だか可哀想になるし、元々オレがロンドンに行ったせいってのもあるから、申し訳なさもあるし。
こんな姿を見せられて、珀英がオレの言葉に仕草にいちいち一喜一憂しているのを見て、嬉しくて愉しくて、嬉しくて愉しくて、お腹の奥底から後ろの深い所までが、一気に熱くなって、じくじくとずくずくと。
疼(うず)き、はじめた。
もう・・・こうするしかないだろう・・・。
オレは珀英の胸に顔を埋めたまま、何でもない風を装って、呟く。
「セックス、したいんだろ?」
「え?!あの・・・その・・・」
オレがそんなことを言うなんて思ってなかった珀英が、慌てて体を少し離して、オレの顔から体から視線をそらして、必死に堪えている。
その様子は可愛いし、ずっと見ていたかったけど、逆にそんな余裕なんかオレにはなかった。
体が火照って熱くて、全身性感帯みたいに敏感になっていて。
珀英の指が少し触れただけでも、シャワーが当たったいるだけでも、じわじわと気持ちよくて我慢できなくなりそう。
もう、さっきから後ろが熱く疼いている。
中が熱くなってて、早く欲しいと叫んでいた。
こんな反応をするのも、珀英に対してだけ。
濡れるのは、珀英にだけ。
オレはお湯で濡れた珀英の長い髪を一房(ひとふさ)掴(つか)んで、ぐいっと引っ張った。
そして驚いた顔の珀英の耳元で、聞こえるか聞こえないかの、ぎりぎりの小さな声で囁いた。
「・・・早く・・・欲しい」
*
緋音さんの、甘い艶(つや)やかな声が鼓膜を支配する。
支配するだけじゃない。
浸透して侵して、壊して、感染して、拡がって、汚して捕まって離せなくて。
オレの全部が、感情だけじゃなくて、思考とか常識とか倫理観とか、嗜好も嫌悪も快感も、本能に近い部分を根こそぎ攫(さら)われそうな感覚がした。
徹底的に壊して、潰して、攫って、奪って、狂(いか)れる感覚。
嫌いじゃない、感覚。
緋音さんに対してだけ憶(おぼ)える。
堪らない感覚。
全部壊されても構わないと思っているのに、本能的な恐怖がわずかに残っていて、思わず緋音さんから逃(のが)れようと一瞬体を離すと、緋音さんが逆に距離を詰めて来た。
オレの首筋に、細い腕を伸ばしてオレの肩と首を絡め取って、引き寄せた。
逆らえずにオレは前屈(まえかが)みになる形で緋音さんの、艶やかな色っぽい顔に近づく。
緋音さんの愉しそうに微笑んだ薄い口唇が、引き寄せられたオレの額に、そっと、触れてくれた。
柔らかい、温かい感触に、理性が一つ外れる。
緋音さんの腰を抱いて引き寄せて、同時に反対の手で顎を捕らえて上に向かせると、
「はくえ・・・っ!」
腕の中の閉じ込めて、覆い被さるようにキスをして、逃げられないように、力で押さえつける。
折れそうに細くて、真っ白な滑らかな肢体。何度も夢に見て、待ち続けた。
こうして抱きしめて、口吻けて、オレの中に閉じ込めたかった。
乱暴に口吻けて、舌を中に侵入(い)れて、小さな怯える舌を搦(から)めて吸い上げて、軽く噛んでまた強く吸った。
「ひゃめぇ・・・ぅんんっ・・・!」
少し高い声が、漏れる。
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