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よくできました 16
紡がれる言葉は軽く抵抗する意味を持っているけど、体は全く逆の反応をしてくる。
抱き寄せた腰は軽く揺れながら、オレの太ももに押し付けてくるし、細い腕はオレの背中に回されて縋(すが)るように抱きついてくるし、やだって言いながら思いっきり舌を差し出して、緋音さんの方から執拗(しつよう)に搦めてきて、お互いの唾液が緋音さんの口の中にも外にも溢(あふ)れて溢(こぼ)れていて。
口唇の端から漏れる吐息が、熱い熟れた呼吸が、じっとりと耳の中に入ってきて、奥まできて鼓膜をじわじわと焼いていく。
ああ・・・ダメだ・・・こんなの無理だって・・・。
オレは脳味噌に酒が回ったような、くらくらした状態になる。たいして飲んでないから酔うわけないのに、この状況はダメだ。
久しぶりの緋音さんは、破壊力がすごい。
脳味噌も細胞も、侵して焼いて狂わされる感覚。
こんなにすごかったか?
こんなにひどかったか?
オレが今までさんざん抱いてきた人は、本当にこの人なのか?
そんな疑問を持ちたくなるくらい、今日の緋音さんのむせ返る色香と、暴力的ないやらしさが、オレの理性と心を壊していく。
でもそれが不快じゃなくて、どうしようもなく気持ちよくて。
全部壊して欲しいと、跪(ひざまず)いて懇願してしまうほどの。
緋音さんの、久しぶりの色気が、本気の誘惑が、やばい。
若干なめていた自分を殴りたいくらいで。
離そうとしても吸い付いてくる口唇が可愛いし、一生懸命に恐々と縋り付く細い腕も、オレを挑発するように焦らすように揺れている可愛い小さなお尻も、ちょっと涙を浮かべている恥ずかしそうな瞳も、震えているくせに執拗に搦んでくる小さな舌も。
全部可愛くてエロくて。
どうしようもない感情が込み上げる。
大事にしたいし、包みこんで優しくしたいし、抱きしめて離したくないし、閉じ込めて誰にも見せたくないし、オレ以外の人には会わせたくないし見て欲しくないし。
両手両足切り落として、閉じ込めて籠(かこ)って、瞳を潰して舌を抜いて、誰も知らない場所に隠(こも)って、オレだけのものにしたくなる。
それができたら幸せかもしれない。
でもそんなこと、出来ないのはわかりきっている。
そんなことをしたら、ステージに立っている緋音さんを見れなくなる。
ギターを弾いている姿が見れない、楽しそうにステージを走る姿が見れない。
美味しそうにご飯を食べる姿も、お酒に酔ってくだをまく姿も見れない。
オレに笑いかけてくれなくなるだろう。
話しかけてもくれなくなるだろう。
怒ったり、泣いたり、罵倒(ばとう)したり、笑ったり、なくなる。
ただただ『無』になるだろう。
オレを好きでいてくれることも、なくなる。
そんな緋音さんを見たいと思う気持ちも少しだけあるけど、それでも愛する人に、ご主人様に笑顔で幸せに生きていて欲しいという願望のほうが強いから。
オレはなんとか踏みとどまって、搦めとっていた舌を放して、緋音さんを見やる。
熱く物欲しそうな色を浮かべた瞳でオレをじっと見つめて、荒く繰り返される吐息を吐き出しながら、弱々しく縋り付く緋音さんを、抱き寄せながら立ち位置を反転させると、しなやかな体を壁に押し当てて、その白い体を固定させた。
緋音さんは必死にオレの首に縋りついて、荒い呼吸を何度も繰り返して、理性を保とうと必死に頭を振って、顔を上げてオレを濡れた潤んだ視線で強く見つめてくる。
その仕草にも煽(あお)られるし、誘ってくる熱い瞳にも、紅い口唇がお湯と唾液で濡れているのも、真っ白な肌がゆっくりと少しずつ仄(ほの)づいていくのも。
全部が奇麗で、艶やかで、愚かで、扇情的(せんじょうてき)で、煩(うるさ)くて、美しくて、醜くて。
堪らない。
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