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 心がざわつく中、ふと目の前の寛希の存在を思い出す。目を丸くして亮介を見ているその顔は、やけに赤くなっていた。  もしや、今触れたものは寛希の唇だったのか。他に考えつくものはない。  寛希につられ、亮介の顔も次第に赤くなっていく。 「ご、ごめん……」  最初に口を開いたのは寛希だった。いつになく動揺しているらしく、やけに自信のない声だった。 「い、いや……。俺の方こそごめん……」 「……大丈夫?」 「何とも、ない」  わざとやったわけではない。それは分かってはいるものの、触れることのないだろうものを触れてしまったせいか、亮介は上手く話せなかった。  互いにそそくさと立ち上がり、散らばってしまった物品を片付けていく。  ようやく元通りになり、帰ろうとしている状態になってもまだ、顔の火照りは治まらなかった。 「じゃ、じゃあな」 「うん……」  普段通りの別れを告げたつもりではあったが、亮介はおかしかったとしか思えずにいた。

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