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夏休みが終わり、授業が少しずつ始まる時期になってきた。
気まずい別れをしたものの、次に会ったときには何事もなく寛希と顔を合わせ、普段通りに他愛のない会話をしている。
あのときのことは何ともなかった、寛希の接し方にはそう思わせるものがあった。
しかし、亮介は倉庫に来るたびに寛希の唇の感触を思い出していた。今まで触れてきたものの中で最も柔らかい。
自らの薄い唇とは比べ物にならないほど、寛希の細部まで女の子よりも魅力的である。
「……いやいや、俺も寛希も男だし」
寛希の唇が触れてしまったことは事故、あれはうっかりだった。そう何度も心の中で呟き続けてはいるが、亮介は忘れることができなかった。
「お疲れー」
突然倉庫のドアが開けられ、少し疲れた様子の寛希が入ってきた。
「お、おう、お疲れ」
頭の中に埋め尽くされた人物が急に現れ、亮介の心臓はドキリと跳ね上がった。
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