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第3話
しばらくぽかんとしていた西内だったが、俺の言葉に驚いた顔になって口を開く。
「うそ!? おまえ付き合ってる人いるの? 男? 女?」
「……男」
「なあんだ、じゃあ問題ないじゃん。ホテル行こうぜ」
「はあ? な、何でそうなるんだよ?!」
「男同士の付き合いだったらさ、尚更お前の彼氏もそういうの理解してくれるだろ?」
「……言ってる意味が全然分からないんだけど?」
「そうだ!」
「な、何だよ?」
西内は良いことを思い付いたぞ、とばかりに喜び勇んでいる。一体何を思い付いたのだろう? 俺には思いきり不安しかなかった。あいつは俺の肩に手を回すと、耳に顔を近づけてこう言い放った。
「……おまえと、おまえの彼氏と俺で3Pしようぜ!」
「は……はああああ?!」
「俺前から3P興味あったんだよなあ。楽しそうじゃん」
本当にこいつは……懲りないというか、どうしようもないというか……
俺はあいつから体を離すと、距離を取る。こんなヤツと付き合ってたなんて、俺も本当にあの頃はどうかしてたんだろうな……
「俺は3Pにはまったく興味ないし、俺の恋人をおまえに会わせるつもりもないから」
「そうなの? 3P絶対いいと思うけど? 3人で気持ち良くなろうよ」
「……そういうのは、エロビデオでも見て一人で楽しんでろ」
「菊池ってば、冷たいなあ」
「俺、もう行かないと。次の得意先のアポの時間迫ってるから」
俺はわざとらしく大袈裟な動きで、腕時計に目を遣ると慌てた口調で言った。これ以上こいつと会話を続けていたら、次にどんな突拍子もない無理難題を吹っかけられるか分かったもんじゃない。
「おう、そうか。仕事頑張れよ。じゃあ、またな。メリークリスマス!」
西内はそう言うと、無邪気な笑顔を俺に向けて手を振った。かつての俺が好きでたまらなかった、あの笑顔。背を向けて歩き出した西内を少しの間見送る。心の中に一抹の寂しさを感じたが、それだけだった。あいつはもう、俺の人生からは退場した人間だ。
「……メリークリスマス、西内」
さよならと言う代わりに、メリークリスマスと言って別れるのも悪くないな、と俺は独りごちた。
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