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第6話
ひとしきり鍋を食い、日本酒も開けて、良い気分になってきた頃、俺はふと今日あった出来事を思い出していた。今頃、西内は嫁さんがいない部屋で、一人きりのクリスマスイブを過ごしているのだろうか? そう言えば、俺が西内と付き合う切っ掛けになったのも、クリスマスイブに二人きりの鍋パーティーをしたからだった。
俺が突然ふさぎ込んだ顔で黙ってしまったからか、緒崎が心配そうに尋ねてきた。
「菊池、どうした? 何かあった?」
こういう時の緒崎はすごく鋭い。
例えば、俺が仕事で失敗してちょっと落ち込んでたりしても、彼はすぐに気付いて尋ねてきてくれる。その時も全然押しつけがましくなくて、言いたくなければ言わなくていいよ、と言いながら、すごく心配した顔をするから、俺もつい緒崎に甘えたくなって口を開いてしまう。心の中に溜まったもやもやを吐きだした後は、いつもすごくすっきりして、仕事の失敗も汚名挽回出来てしまうので、緒崎は俺にとっては幸運の女神さま、いや男神さまさまだなって思っている。
この時もまたいつもみたいに、俺に話してみろよ、という顔をしているので、俺は昼間に西内と会った話をする事にした。
「……今日さ、外回りしてる時、偶然ばったり前に付き合ってたヤツと会っちゃって」
「それって、結婚式の人?」
「うん」
「新婚なのに、嫁さん不在を狙っておまえをホテルに誘ったヤツ?」
「そう」
「もしかして、何か嫌な事でも言われた?」
緒崎は俺があの晩、西内とホテルまで行ったものの、途中で怖じ気づいて逃げ出したのを知っている。あの事件があったから、俺は緒崎と付き合う事になったのだ。
「ううん……嫌って言うか、何て言うか……」
俺は口ごもった。
「いいよ。言いたくないなら、無理するな。ほら、もっと飲めよ」
緒崎は日本酒をコップに注いでくれる。
「言いたくないんじゃないんだ。何て言うか、かなり変な話っていうか……」
「変?」
てっきり俺が秘密にしたい話題なのか、と思っていたらしく、変な話、と聞いて緒崎も変な顔をした。
「ちょうど会ったのがランチタイムでさ……その時間使ってホテル行こうって誘われたんだ」
「ランチで昼飯食う代わりにおまえを食うって話? 懲りないヤツだな」
緒崎は苦笑する。
「それだけじゃないんだよ。……俺はもう付き合ってる相手がいるから、そういうのは絶対にしないって言ったら……」
「……言ったら? 何て言われたんだ?」
「俺とおまえとそいつで3Pしよう、って言われた」
「ぶはっ……あはははは!!!」
緒崎は思い切り吹き出すと、お腹を抱えて爆笑し始めた。
「笑い事じゃないんだけど……」
俺はむすっとして言い返す。
「ごめん……いや、まさかそういう返しがあるとか想像してなかったから……」
緒崎は涙を流して笑い続けている。
そんなに面白い話だったんだろうか? 俺は全然面白くなかったんだが。
「ほんっと、菊池の元彼って話題に事欠かないっていうの? 信じられないようなネタを提供してくれるよな」
「信じられないような事言うってのは、俺も同感なんだけど、言われた方の身にもなってくれよ」
「確かにね……そんなの真顔で言われた日には、俺だったら相手を殴っちゃうかもな」
「え?」
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