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うたとおと
「うっちゃ…うっ、ちゃ…バーイ」
「おと。にぃちゃん頑張ってくる。そしたらお馬さんまたしてあげるから」
言葉を喋りはじめてばっかの弟と離れ離れにされて3ヶ月…先の見えない治療にうたは悩んでいた。
主治医の先生は優しいけどすぐどっかいっちゃうし…抜け出せない迷路にいるようで不安だ。
「うた…?よく眠れましたか?」
「うん紫藤先生」
「体調に変わりは?大丈夫」
「はい」
「ならよろしい。昨日言ったとおり極めて悪い状況です。このまま精神が病んでもおかしくない域まできています」
「でも…。調子は悪くない」
「それは定期的にホルモン補充をして、きちんと睡眠、食事、性欲まですべて管理されているからだと昨日も言いましたが?」
「だけど!弟はどんどん成長してく!!」
「うた自身の成長が止まったままなのはいいと思うんですかっ!?」
「先生…」
「すみません…声を荒げましたね。私は心配です。あなたたちが。みなが普通に成し得ていることたちに対してあなたたちは援助が必要。なのに…痛いから恥ずかしいからとあなたたちは協力しない」
「そう、だけど…」
「私のことはいくらでも嫌えばいい。だから治療はさせてもらいます。いいですね?」
「でも…」
「まあ将来治ったらうたの子どもの写真をぜひ送ってください」
紫藤は白衣のポケットから手紙を3通取り出し、うたにコッソリと見せた
「みんなには内緒ですよ?私の宝物ですから」
手を伸ばし中を見ると
〝先生ありがとう〝〝先生産まれた〝
〝いまでも嫌いだけどthank you〝と言った
手紙と子どもの写真が入っていて、うたは思わず涙をこぼした。
「分かった…頑張ります」
紫藤は手紙を受け取りポケットにしまいそっと人差し指でシーっとポーズをしポケットを叩き、ひらひらと手を振りうたの部屋から消えた
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