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由宇 全面解放

「祖父江。由宇は一晩問題なく過ごしたようだ。8時00分全面解放でいくが何かあったら俺が責任をとるから部屋から出すよ」 瀬谷は出勤してすぐ祖父江に伝えた 「分かった。今後の治療はどうする?」 「俺が付き添うよ」 「本人の希望か?そんなに甘えん坊には感じなかったが…」 「祖父江が怖いらしい」 「嫌われたか?」 「だね。おまえが来たら泣くそうだ」 「賢くて強い子にみえたが…幼いところもあるんだな」 祖父江は頬を掻き、瀬谷から目をそらした。 「小児領域は祖父江のが得意だろう?」 「なかなか難しいよ。彼らは個々によって違うから」 祖父江との話しが終わり、瀬谷は由宇を迎えに来た ギィー… 「先生っ」 今度は誤解されないようにいい子でベッドで瀬谷を出迎えた 「由宇、おいで?」 「?」 「お部屋に帰ろう?」 「え…」 「送るよ」 「や…だ。先生、外来行くんでしょ?そしたらもう来ないと思う」 「そんなことはないよ。解放になったから行こう?」 「う…うん」 点滴スタンドを掴み立ちあがると由宇は歩きだし、瀬谷は由宇に手を差し伸べた 「ほら」 由宇は瀬谷のあたたかな手をぎゅっと握り、保護観察室の扉を抜けステーションへと入った。 「由宇くん、おめでとさん」 周防が満面の笑みで出迎えると、由宇もつられて笑い、瀬谷は周防に耳打ちした。 「周防、俺は外来があるから後はこの子をここに置いていっていいかい?」 「ステーション預かり?ええですけど。見張りいる感じなん?」 「違うよ。強がってはいるがお部屋だと寂しいようだから」 「分かりました。任しといてください。由宇くん、先生お勤め行かれるからここでいったんさよならな?」 「うん、分かった。行ってらっしゃい」 瀬谷を見送ると周防は手招きし、センターテーブルへと由宇を座らせた。 「部屋に帰りたなったら帰ってええけど、しばらくここにおりぃ?ええ?」 「うん。ね、周防さんこれ読んでいい?」 書棚にある本を指差し由宇は周防に尋ねた 「ええけど…それ、たぶんおもろないよ? 摂食障害の看護の本やで?」 「昨日…知り合った子、たぶんそれだから読んでおきたい」 「ん?臣くんに会ったん?」 「うん。夕飯の時にちょっと話した」 「気になるん?」 「気になる…ってか長い付き合いになりそうだから」 「勉強熱心やなぁ、自分」 周防は感心して由宇の頭を撫で、由宇は照れて笑った。

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