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甘えん坊な由宇くん

「瀬谷先生‥もう終わり?」 「ああ、おしまい」 「ぎゅして?俺頑張ったよ」 「そうだね。頑張った。ほら、ぎゅ。これでいいかい?」 「やだ。足んない。一週間分してよ」 「甘えん坊。ぎゅー」 2人の様子を見ていた佐渡は、その可愛いさに笑みが漏れ慌てて口元を隠した やばい…高校生男子、可愛いすぎだろ はちゃめちゃに懐いてる… 先生に抱きしめられてニコニコとか…っ うらやましい。これだけ信頼されるとかすごい 佐渡が感心していると、瀬谷が由宇を抱きしめたまま口を開いた 「驚いたかい?」 「え、あ…はい。なんか懐いてますね。さっきまで泣いてたのに」 「怒ったり泣いたり笑ったりさまざまだよ。いちばん多感な時期に入院しているからなかなか難しくてね。研修中に頑張って関係を築いてね、佐渡くん」 「はい」 「由宇、今ならちゃんと聞けるかい?抜糸の実習をさせてもらった佐渡琢磨くんだよ」 「ごめん。顔は見た覚えあるけどよく、分かんない」 「そうか。あと2週間、研修で由宇の担当をするから頼むよ?」 「へ?なんで俺?」 「泌尿器科志望だから」 「やだ…かも。血ぃ採られたくないよ、俺」 「未来の医者のために頼むよ、由宇」 「頑張ったらご褒美ある?」 「ん…そうだな、由宇あーん」 瀬谷はポケットから飴玉を出し由宇の口に放り 「これくらいのご褒美ならいくらでもあげるよ」 「飴…悪くない」 コロコロと口の中で飴を転がし、由宇は瀬谷が逃げないように服を握った 「どうした?まだ甘えたりないか?」 「だってさ、この流れ後は若い2人でー…ってやつじゃん」 「はいはい。まだいるから。ちなみに佐渡くんはもうレポートの時間だから帰ってしまうからまた明日ね」 「ふーん」 「えと…またね、由宇くん」 興味無さそうに由宇は瀬谷の胸に頭を預け、適当に手を振った 「興味無さそうだな?由宇」 「無さそうじゃなく、無いの。起きていきなり担当です言われても困る。俺、OKした覚えない」 「由宇、嫌かい?彼は学生さんじゃなくもう立派にお医者さんなんだが…一人前になるための練習期間なんだよ。患者さんの協力が必要不可欠でね」 「嫌だけど、先生がどうしてもって言うなら我慢する」 「いい子だ、由宇」 「でも仲良くできるかは分かんない」 「それは、佐渡くんの頑張り次第だから由宇は気にしなくていい」 「分かった」 「ありがとう、由宇くん。それじゃまた明日」 「レポート頑張れ、ばいばい」 由宇の気遣いに嬉しさを感じ、佐渡は頬を緩ませ手を振りリカバリーから研修棟へと向かった。 9年後、佐渡と、由宇が一緒に働く仲になることをまだ誰も知らない

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