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〝あなたのお気に召すままに〝コラボ 5

葵が由宇の両手を握っていると、由宇の手からにじみでてくるしっとりとした汗を感じた。 緊張してるんだ…この子 何か声をかけてあげなきゃ。よし 俺は意を決して話しはじめた。 「由宇…くんって言ったっけ?」 「うん…」 「将来は何になりたいの?」 「医者…」 「そうなんだ!なんで?」 「瀬谷先生…かっこいいから。祖父江先生みたいに上手に注射できる医者になりたい。友達が〝由宇ならなれると。応援しとるばい〝って言ってくれるから頑張ってみようと思ってさ」 「それって主治医?」 「うん」 「憧れかぁ。分かる!俺もある人に憧れたんだよ。俺も応援してるね」 「ありがとう」 由宇の笑顔が見れた よし。声かけ、いい感じにできたかもしれない 「由宇くん、処置はじめていくよー」 「うん」 和やかな雰囲気で処置が始まったが、すぐに場の空気が変わった 「っ…いっ…ゃっ…」 最初のうちこそ我慢しているみたいな感じだったけど、だんだんと声が大きくなって叫びに近い声があがっていた 「い゛ぁっ…やぁあっ」 「つっかえるな…」 「成宮先生?」 「いや、大丈夫だ。たぶんこの部分が痛いんだと思うんだよな。ここさえ抜いちゃえばいける。葵、しっかり押さえてて?どっちも怪我させたくないから慎重に」 「はい」 こんな時でも周りを思いやる成宮先生…さすがだ。由宇くんも泣きながらではあるけど、成宮先生を信頼して頑張って耐えてる 「由宇くん、ちょっとだけ頑張れー…息吐いて」 「ふー…いったぁい…っ」 チョロチョロ… 出た! 少しずつだけどどんどん尿瓶に溜まっていく由宇くんの尿。 よかった…よかった! さすが俺の成宮先生っ 俺の手柄じゃないけど、誇らしくなるよ 「由宇くん!よかったねっ出たよ」 管が抜け切ってから葵は由宇を労い、由宇ははにかんだような笑みを浮かべた。 「うん…」 ほっとしたのかな? 成宮先生を見ると由宇くんの頭を撫でてる 「お腹、まだ痛む?」 「大丈夫…」 「よし、よく頑張って耐えた。偉かったよ、由宇くん。瀬谷先生って言ったかな?頑張ったよってお手紙書いておくよ」 「ありがとう、成宮先生」 由宇は両手を広げていつも瀬谷にするようにハグをねだった 「ん?分かった分かった、ほら」 さっと成宮は由宇を抱き起こして、由宇の背中を撫で褒めてる なんだろ… 痛いのから解放されてよかったね!って思いながらも心に感じるツキンとした痛み 俺以外を抱きしめないでほしい… 性的な意味で抱きしめてるわけじゃないって分かってるけど…やっぱりどうしても辛く思う 相手はまだ子ども…患者さんでしかも男の子なのに… 千歳さん、気づいていますか? あなたの患者さんに向けるその笑顔がたまに、たまらなく辛く俺が感じていること… 千歳さんにもっと褒められたい… 〝葵!よくやった〝って抱きしめられたらどんなに幸せだろう

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