691 / 1209

由宇 帰宅

就業時刻を迎え、由宇は瀬谷の車に乗っていた。 後ろの席にある青いジュニアシートを見て 「男の子?」 「ん?あぁ、そうだよ」 「この子なんて言うの?何歳?」 「紫苑(しおん)。5歳だよ」 「かわいい?」 「うん、そうだね。写真見るかい?」 陽差し避けに挟んである写真を由宇に瀬谷は見せ 「七五三のだよ」 「かわいいな…先生に似てる」 「そうかい?ありがとう」 「いいなぁ…」 「ん?」 「子ども…欲しい。臣と育てたいな。臣、プロだし…」 「興味があるなら里親になればいい」 「里親って…犬猫じゃないんだから簡単にはいかないって」 「まあそういう選択肢もあるってことだよ。やるやらないは別問題」 「ありがとう。あ、ここです」 「ここのマンションかい?」 「うん。中古だけど…アパート代払い続けるより堅実じゃん?」 「賢いね。心配だから部屋まで送るよ」 「で、でも…」 「いいから。素直に甘えなさい」 「分かった。お願いする」 車から降りて、瀬谷に腕を支えられて部屋の前まで行くと由宇はドアチャイムを鳴らした 「鍵、忘れたのかい?」 「違う。持ってるけどこうした方が臣が喜ぶ」 「由宇ー」 焦った様子の臣が扉を開けると瀬谷と目が合い、臣は頭を下げた 「やっぱり瀬谷先生…こんにちは?どうしたと?」 「由宇をいいかい?」 「よかよ。由宇…おいで…あ、ちょっと熱い?」 「ちょっと熱を出してしまってね。今は薬で少し下がっているはいるが…よくみてあげてほしい。頼めるかい?」 「分かったと。先生、お茶でも出すけん、上がって?」 「じゃあ1杯だけいただくよ」 「由宇…ベッドに」 「やだ…1人にしないで」 「甘えん坊になっとると?」 「そのようだね」 「仕方なかね?ソファに行くっちゃけん、行こ?」 「うん」 臣は由宇を支えながら歩き、瀬谷はその後についていった。

ともだちにシェアしよう!