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 絶句……  ずっと夢に見てた、妄想してた、そのソナタの姿が僕の目の前にある。  サンタクロースのコスチューム。それも女性のもの。  なぜソナタがそんなものを持っているのか、着ているのか、もう僕にはどうでもよかった。  僕よりも少し背が低いことを気にしつつも、ちょっとだけ偉ぶって、時々僕のことをかばって、いつもかっこいい姿を見せていたソナタの、恥ずかし気な、かわいらしい姿。  僕が、僕が見たかったもの…… 「へ、変だろ。やっぱ変なんだろ? ちょ、着替えるから、外で待ってて」  僕が黙っていたのを、ソナタは勘違いしたのだろう。手元にあったリモコンで部屋の電気を消し、僕に向けてそう言い放った。 「そ、そうじゃなくて、ソナタ」 「はいはい、忘れて忘れて。ほら、外で待って……」  暗がりに戻った部屋の中、ソナタの手が僕を部屋の外へ押し出そうとする。 「そ、そうじゃないよ!」  無意識、だった。ソナタの体を抱きしめる。細い体なのに、パンと張った筋肉の弾力が僕の腕の中にある。  肉のついてない骨ばった僕の体とは対照的だね。少しうらやましい。  逆だったらよかったのに。 「お、おい!」 「かわいい、かわいいよソナタ。見とれちゃったんだ」 「は? 俺がかわいいわけないだろ!」  ソナタが僕の体を振り払う。 「ううん、かわいい、と、思う」 「バッ、だっ、まっ!」  何が言いたかったのだろう。意味の分からない声を上げて、ソナタがぶんぶんと腕を振った。 「も、もしかして、僕のために?」  そういうと、ソナタの動きが止まった。  どんな表情をしているのか、暗がりで見えなかったけど、なんだか少しソナタの息が荒い。それがしばらく続いた。 「だ、だめかよ」  ぽそっと、本当にぽそっと、聞き取れないくらいの声でソナタがそう返事をする。 「ソナタ……」 「か、彼女のできそうにないお前のために、きょ、今日だけなら、なってやっても、いい、かな、とか」  普段とは全く違うソナタの態度。いつも自信満々で、明るく、決断力の塊のようなソナタが、いまはただ恥ずかしがるだけの存在になっている。  キュ……キュン死しそう…… 「ほ、ほんとに?」 「いやなんだった別に」 「いやじゃない!」  もう一度ソナタを抱きしめる。耳元にソナタの息遣いがかかるくらいに抱きしめたけど、もうソナタは抵抗はしなかった。でも、ソナタの体はこわばってる。 「お、おかしいだろ、でも、やっぱ」 「そんなことないよ。も、もっと、見せて欲しい」  しばらくの沈黙。でもその間も、体の中の熱が上がっていくようだった。  今、ソナタと抱き合ってる。ソナタの体が、僕の体と触れ合ってる…… 「きょ、今日だけは、お前の彼女なんだし、カ、カナタの好きにすればいい」  ソナタは、僕に抱かれるまま、体の力を抜いた。 「す、好きにしていいの?」  ドキドキが止まらない。心臓が口から飛び出そうって、こういうことだったんだ。 「お、おう」 「じゃ、じゃあ、キ、キスしても、いいの」  また、言っちゃいけないようなこと、言っちゃってる。せっかくの雰囲気、ソナタが拒否ったら、台無しに…… 「べ、別に、カ、カナタがしたいなら」  その後の言葉は声にはならなかった。  信じられない。信じられない。息が詰まりそう。  熱い……顔が、熱いよ……  沈黙。二人の息遣いがこだまする。  ソナタの耳元にあった僕の唇を少しだけ動かす。それに呼応するように、ソナタの顔も動いた。  息遣いがいつの間にかシンクロし、互いの唇にかかる。 「ん……」  二人の唇が重なった瞬間、二人の声も重なった。

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