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第3話
あれから変わらぬ日々が続いている。
僕は相変わらず、バイトと家の往復で新しい出会いもなく、茉優ちゃんと楽しく過ごしている。
「晴人、お前今日暇か?」
店頭で入荷してきた洋服を棚に陳列している僕に、カウンターから元担任のケンちゃんが声を掛けてくる。
「何~?」
洋服の畳みが終わると、棚上に置いていたグッズの陳列に移る。
バッグの中に、アンコと言われる紙を大量に詰めながら返事をすると
「イヤ、だから今日暇かって?」
「暇~!茉優ちゃん、今日は職場の人とご飯食って帰るってさっき連絡あって、暇になりました~」
アンコを詰め終わったバッグを棚上に陳列し直して、ベルト等も見栄え良く並べていく。
「夜さ、ちと付き合って欲しいんだけど」
「何処に?」
「クラブ」
グッズを並び終えた僕は、ハンガーに洋服を掛けると、色合いや素材に注意しなおかつ上下で合いそうなアイテム同士を考えながらポールにハンガーを掛けていく。
「珍しいね、ケンちゃんがクラブとか」
「主催が知り合いなんだわ、インビ貰ってっから付いて来てくんね?」
「まぁ、タダで入れるんなら良いケド……」
「良い出会いが待ってるかもな」
ケンちゃんの一言に、グッと言葉に詰まる。
別にケンちゃんに、最近付き合っていた同性に振られました~。なんて言った事は今まで一度も無い。だから普通に茉優ちゃんと付き合ってるだけだと思ってるだろうし……。けれど何故か元気が無いのはバレてしまう。顔に出てんのかな……?
ケンちゃん事高橋賢太郎は、僕が高校二、三年の時の担任で、とてもお世話になった人だ。
当時体の関係だった先輩が卒業して、三年になった当初はまだ学校に行けていたが、日々の当たり前の事に息苦しさとストレスで不登校になった。再びがむしゃらに普通になろうとした結果だ。
ケンちゃんはその頃からちょくちょく僕の家に家庭訪問に来てくれていたが、学校に来いとは一度も言われた事が無かった。
『別に来たいなら来れば良いけど、無理して来るもんでもねぇからな~……』
が口癖で、家庭訪問中も学校の話はした事が無い。
ゲームを二人でしたりとか、漫画の話とか……。
高校三年って言ったら、受験なワケで………、勉強云々言われるかな?とも思っていたが
『あ?お前受験する気あんの?』
と、不思議そうな顔で言われてしまえば、笑いしか出てこなかった。
受験する気も無かったし、まぁ、フリーターでいこうと思ってると言った俺に対して
『お前が卒業する時に俺も学校退職して、したかった事しようと思ってるからさ、お前働きに来い』
と言ってくれて、今に至ってる。
LGBTQのイベントに誘ってくれたのも、たまたま一緒に行ってくれる人が見付からず、暇人を探していた時に僕が浮かんだらしい。
ケンちゃん曰く
『引き籠もり脱出に一役買えて良かったわ』
だ。本気で言っているのか、敢えてそう言ってるのか解らない。だが僕は、僕を僕として認めてくれていたケンちゃんに凄く感謝しているし、敢えて言ってくれてるんじゃ無いかって、勝手に思っている。
僕のセクシュアリティについては詳しく説明はしていないが、きっとなんとなく気付いているじゃ無いかとは思っている。まぁ、イベント後に明るくなったんだから、茉優ちゃんと付き合っていても、それ以上に何かあるとは、バレてるか。
だから僕に、たまにだけど際どい質問をしてくるのか?
それとも本当にただ単にそのイベントで茉優ちゃんと出会って、僕が元気になったと思ってるのか……。
結構長く付き合いがあるのに、その辺は全然掴めない。
「いい出会いって……」
「は?何時も言ってんだろ、お前は友達が少なすぎる。友達作れ、友達」
あぁ……、そういう事ね。
って、本当に思って言ってんのか?
訝しげにケンちゃんを見詰めると、ケンちゃんは面白そうに口元を歪めている。
含んだ言い回しやめろよな。本当つかみ難い。
ケンちゃんの顔を見ていても、本心かどうかなんて解る筈も無く俺は溜息を小さく一つ吐いてディスプレイの仕事に戻る。
「店終わったら飯一緒に行ってから向かうからな」
「了解、帰りは?」
「若者の面倒は見ないぞ」
「了解~」
飯は奢ってくれるが、帰りは好きにしろね。
ケンちゃんの何時ものパターン。楽しい所には連れて行ってくれて、後は自由にしてくれのスタンス。
自分が好きな時に帰りたいから、帰りは自由解散だ。
その方が僕もケンちゃんもお互いの事を気にする事なく楽しめるので、もうずっとそうしている。
ケンちゃんが言っているように、僕には友達が少ない。まぁ、いる事はいるが、僕がこういうセクシュアリティなのを知っている友達はごく僅かだ。
LGBTQのイベントで出会った人達も何人かいるが、プライベートで遊ぶっていう程の仲の良い人達は余りいない。月に何度かあるイベントで会って、お互いの近況を話す位に終始している。
学生の時の友達とは、それこそ会ったりして遊ぶ事もあまり無い。
会えば彼女がどうとか、早い奴は結婚とかの話になるし、僕も茉優ちゃんとは結婚を考えているが昔からその手の話は苦手で、積極的に話をした事が無いので、帰りたい気持ちが勝ってしまう。だから、会っても上辺だけで楽しんでいる自分に疲れてしまうので、極力会う事を避けている自分がいる。
それを知ってか知らずかケンちゃんは僕に友達を作れと言ってくるが、友達を作ることに消極的になっている自分がいるのも事実だ。
同性はふとしたきっかけで、そういう対象と見てしまう僕にはリスクが高いし、かといって異性になると恋愛対象として見てしまう恐れもある。そうなるとやはり僕のセクシュアリティを知った上で付き合える友人を作るのは難しい。
だって、友人を作る前に僕を知ってもらわないとならないし、それには凄く勇気がいる。
もし、僕の事を喋って変な顔をされたら?
それこそ僕は自分を許せなくなるし、羞恥心や自己嫌悪で死にたくなってしまうかもしれない。そういう先の事を考えて、一歩が踏み出せない。
けれど、人との関わりを断ってしまうのも恐怖なのだ。
僕は一人では生きていけない事も理解しているから。
そこまで強くも無い。
茉優ちゃん以外の同性と付き合う時も、僕からアプローチする事は少ない。始まりは何時も相手から声をかけられてからだ。
「友達……か」
自分を隠して作る事は容易い。だがそうして作る関係性は長く続かない事も知っている……。
「それが一番、難しいよね……」
それよりも、出来れば欲を満たしてくれる人と出会いたい気持ちも少なからずある。
悲しいかな、あれからそっちの方でも出会いは無くフツフツとした欲が僕を蝕み始めているのも確かだ。
友達よりも、そっちの方面での出会いがあっても良いのでは?
まぁ、そんなに上手くいかないか。と、再び小さく溜息を吐き出し、僕は仕事の続きを始めた。
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