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第5話
あれから、日々は何事も無く過ぎている。
相変わらず僕と茉優ちゃんは、楽しく同棲を続けているし、文也ともたまに会ったり、食事したりしている。
茉優ちゃんには文也との事は説明済みで、まだ自分が彼女がいる事を文也に言えていない事も伝えている。
『言えるタイミングがあったら良いね』
と彼女は言ってくれるけど、早目に言った方が良いのは、痛いほど自分でも理解している。
文也と会う度に、今日こそはと意気込んでいるのに、いざ言うチャンスがあってもどう説明すれば良いのか二の足を踏んでしまうのだ。
二の足を踏んでしまう理由………。
とんでもなく、僕と文也の相性が良いから。
一番最初のバニラで終わってしまった行為も、最後まで自分が夢中だった事は初めてだ。
大概は、している最中でさえも上から冷静にその行為を見ている自分がいるはずなのに、文也との時はそうならなかった。
その後も何度か遊びに行ったり、食事したりを繰り返したが、まぁ、最後は必ずセックスをする。
僕のメインは、それだから。
同姓に求めてしまうモノ。
この間、初めて文也とアナルセックスを経験したが、体の相性が良いとはこういう事かと、変に納得したのを覚えている。
肌馴染みが良すぎる。
ピッタリとピースが合うような感覚は初めてで、僕は文也とのセックスにハマってしまった。
だから、彼女がいるって事も伝えたいけど、なかなか言い出せずにいる。
ハッキリ言ってしまえば、惜しいのだ。
彼女の事を文也に伝えて、彼を手放すのが惜しい………。
もしかしたらこんな僕を文也は受け入れてくれるかもしれないが、それとは反対の事になった場合を考えると、どうしても伝える事を躊躇ってしまう。
「マジで、ゲスい事してんだよね~……」
店先のカウンターに片肘をついてボソボソと呟く僕の後頭部を、バシンッと鈍痛が襲う。
「痛ッタ!」
後頭部を押さえながら振り返った視線の先には、バインダーを手に持ち片眉を上げて僕を見ているケンちゃんがいる。
「何がゲスいって?」
「ケンちゃん、痛いって」
「アホ、カウンターに肘つくなっていつも言ってんだろ?」
そうだ。ケンちゃんにはいつも、表で歩いている人から暇そうな店に見えないように、カウンターでは肘をつくなと言われている。
「ゴメン………」
素直に答えた僕の頭を撫でながら
「お前イベントあった辺りから、何かあったか?」
と、聞いてくる。
ケンちゃんには文也の事は話していない。
イベントの事もケンちゃんが帰った後、しばらく居たがそのまま帰ったとしたか伝えていないのだ。
「は?何がって、何?」
このやり取りも何度目か……。
なまじ人の事を見ているケンちゃんは、いつもの様にしているつもりの僕の態度が違うのか、事ある毎に何かあったのか?と聞いてくる。
「イヤ~、最近いい事あったのかなって思って?」
ニヤニヤと悪い顔をしながら言ってくるケンちゃんに、僕は溜息を吐き出しながら
「だっから、何もねーって」
と、誤魔化している。
今迄だって、茉優ちゃんと付き合っているのに、関係のあった同性の事をケンちゃんには言っていない。
言う事でも無いし、もしひょんな事からケンちゃんに知られて、幻滅されたくないのだ。大抵の人は、彼女がいるのに他の人と関係を持つ事に嫌悪感を示すものだと知っているから。
僕はケンちゃんに幻滅されたくない。
「ま、良いけど。所で明日さ、急にで悪いんだけど、店休みにすっから」
「あ、ソロソロ?」
「まぁ~、明日か明後日位だと思うんだけどな」
「ケンちゃんが、パパか~。何か変な感じ」
「オイ」
「ゴメンて」
そうなのだ。ケンちゃんの奥さんは今、出産間近な為入院している。
予定日は過ぎているのだが、なにせ初出産。予定外の事態はよくある事らしい。
お店も別に閉めなくて良いよとは言ってたのだが、僕一人だけ働かせるのは悪いと思っているのか、休みにするみたいだ。
お店を休みにするにあたって、張り紙はもう作成済みだし、産まれたらそのまま三日間臨時休業するらしく、その時は僕だけお店に行って、張り紙の文言を変えて帰って良い事になっている。
産まれたら、そりゃぁちょっとでも長く奥さんと、娘さんの傍に居たいよね。
あ、そうそう。産まれてくるのは娘ちゃんだ。
「本当、産まれたら激甘になりそうだなぁ~」
「当たり前だろ?嫁にもやらん」
「彼氏は良いんだ?」
「必ず紹介させて、俺がキッチリ見極めてやる」
「可哀想~」
「何だと!?当たり前だろ!」
この会話も最近はパターン化しているが、会話をする度にケンちゃんの幸せそうな顔が見れるので、ついつい話を振ってしまう僕がいる。
「僕も早く会いたいな~」
「だろ?可愛いに決まってるからな」
「奥さんに似てますように!」
「………。それは、俺も思う」
お互いに顔を見合わせて、アハハッと笑い合う。
出産祝いは、近々茉優ちゃんと買いに行こうと話していて、明日お店が休みになるのなら、茉優ちゃんと一緒に出掛けようかなと笑いながら考える。
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