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第7話
文也からの連絡が途絶えて数ヶ月。
僕は普通に生活している。
ご飯もちゃんと食べられるし、睡眠だってとれている。
仕事も、茉優ちゃんとの生活も、何ら今までと変わりない。
ただ、体の奥から湧き上がる仄暗い欲が僕を蝕む事があるが、他の誰かに慰めてもらおうとは思わなくなっていた。
「今日は職場の人と夕飯食べて帰るから」
茉優ちゃんと一緒に朝ごはんを食べながらそう言われ、頬張っていたサンドイッチを咀嚼しながら頷く。
「了解、楽しんでおいでね」
「ありがとう、晴君も今日は遅くなるんだよね?」
「ン?そうだな~、まぁミズ次第かな?早目に帰れそうならその前に連絡するわ」
「解った、晴君も楽しんでおいでね」
「ありがとう」
今日は本当久し振りに、高校の時の友達と遊ぶ予定になっている。
高校二年の時に同じクラスになった清水直人ことミズとは、部活も同じだった。
当時の僕とは全く逆で、明朗闊達。クラスや部活でも奴の周りには常に人が居た。
僕とも気さくに話をしてくれるタイプで、学生時代プライベートで遊ぶ事は無かったが割と話はしていた奴だ。
先日たまたまミズがウチの店に来店し、ケンちゃんと僕に久し振りに会ったというワケ。
今日は店の周年イベントがあり、ケンちゃんと僕は勿論強制的に参加だが、ミズも誘ってみたら行きたいとのことだったので僕がエスコートする事になった。
周年イベントは、知り合いのヒップホップDJが何組か回してくれてダンスイベントなんかもある。デコもVJも手配済みで結構大きなイベントで、毎年三百人位は遊びに来てくれる。
チケット、インビ共々ほぼ完売。
イベントでは毎年周年記念のTシャツを販売するのだが、今年は僕がデザインした。
お客さんの中には、周年のTシャツを楽しみにしている人が結構いるのでプレッシャーだったが、Tシャツの素材もヘンプのものを使用したり左脇腹にタイダイの模様が出るよう染めてもらったりと、結構力を入れて考えただけあって、ケンちゃんからも可愛いとお墨付きだ。
「私も行きたかっけどな」
残念そうに呟く茉優ちゃんに、僕はニコリと笑いながら
「来年はおいでよ、職場の人とご飯って送別会って言ってたし、そっちの方が大切だしね」
「二次会が無かったら、顔出そうかな」
「イヤ~~、茉優ちゃんの職場、キッチリ二次会までするじゃん?」
「そうなんだよ~~!カラオケより、クラブに行きたい………」
あ~~~っと、本当に残念そうに言う彼女が、可愛くて僕は声を上げて笑ってしまう。
「今度は違うイベント一緒に行こうよ」
「本当!?」
「勿論、来月に確かレゲエのイベントあるよ?」
「行く~~~!」
途端に笑顔で嬉しそうに言う茉優ちゃんに、僕もニコニコだ。
あれから茉優ちゃんとは、文也の事について話はしなかった。
数日間、彼女には心配をかけてしまったがそんな彼女を見て普通に振る舞おうと僕も思ったし、何も話さない僕に茉優ちゃんも察してくれて、いつも通りの感じでいてくれた。
お互い朝食を済ませ、それぞれの職場へ。
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