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第8話
「じゃ俺は先に行っとくから、後よろしくな」
「解った」
「またな」
僕とミズはそう言って店を出て行くケンちゃんの背中に、それぞれ手を振る。
僕はこれからレジ閉めをして、ミズと一緒にクラブへ行く。
レジを閉める間ミズには待ってもらっている。
「シマ、お前もイベント行ったら、何かする事ねーのか?」
僕はミズから、シマと呼ばれている。高校の時の奴等は皆僕の事をそう呼ぶのだ。
「Tシャツ売らないとだったんだけど、ミズと一緒だから楽しめってケンちゃんから言われた」
「あ、マジか。悪い事したな?」
「いんや~、僕は逆にミズに感謝だけど?」
「だよな~」
軽く返されて、僕は少し笑いながらお金の計算をしていく。
「俺クラブ行くの初だからさ、緊張してきたわ」
ソワソワと落ち着きが無くなってくるミズを笑いながらレジ閉めが出来、僕とミズは店を後にする。
クラブへと行く前に、ミズと一緒に軽く腹ごしらえをして行くと、クラブの前には見慣れた人達が僕に挨拶をしてくれる。
僕も挨拶を返して、ミズと一緒にクラブへ入っていくと、予想以上に人が多くてキョロキョロとケンちゃんを探してしまう。
「ミズ、こっち!」
ミズも人に圧倒されているのか、初めてのクラブに物珍しいのか、僕同様落ち着き無く辺りを見回していたが僕の一言に後に付いてきてくれる。
ケンちゃんはカウンターの中で、クラブのスタッフと一緒にドリンクを捌いていた。
「ケンちゃん来たよ!」
カウンター越しから大きな声でケンちゃんに呼びかけると
「おう、何か飲むか?」
と、返される。
本当に僕は手伝わなくても良いらしい。
ミズに声をかけて、二人分のドリンクを貰うとフロアーの方へ行こうと促す。
今回のクラブはラウンジとダンスフロアーが別になっていて、ラウンジにはソファー席や椅子が結構多く設置してある。
ダンスフロアーの出入り口を開け中に入ると、こちらにも結構な人が、踊っている。
「凄いな」
ミズが顔を寄せて僕に言ってくるが、踊ろうかどうしようかとソワついているので
「踊り、行こうか」
とミズに言い返し、僕は人の渦の中に入っていく。
僕の後に続いてミズも渦に入って行くと、ぶつかった女の子にアピールされている。
ミズは結構男前だ。タッパもあるし、体格も良い。つい最近彼女と別れたと言っていたので、ケンちゃんが気を利かせてこのイベントに遊びに来いと誘ったのだ。
照れながらだが、アピールされた女の子と一緒にリズムを取っているミズを確かめて、僕はDJの方に近付いていく。
僕の好きなヒップホップの曲を良くかけてくれるDJが、今の時間回しているので絶対にこの人のは聞きたかったのだ。
一段高くなっているステージにブースがあり、その前までくると僕もドリンク片手にリズムに乗り始める。
しばらく踊っていると、急に肩を掴まれたのでミズがこちらに来たのかと思い笑い顔で振り返ると、そこには文也のツレがいた。
「ちょっとラウンジ行こうよ」
耳元で言われ、服の裾を掴まれてそのままラウンジの方に引っ張って行かれる。
奥の空いているソファー席に押しやられると
「座りなよ」
と、相手は座りながら僕に言うので、僕も大人しくそれに従う。
座ってからしばらくお互い無言だったが、向こうから
「彼女さんとは、仲良くやってんの?」
と質問され
「………、まぁ」
それ以外に答える台詞が見つからず、呟く。
「そっか、上手くいってんのか……、文也的には残念な知らせだね」
文也という名前で、ピクリと反応してしまう。相手はそんな僕の反応を見逃さず
「まだ気になってんだ?」
嫌そうに口元を歪めながらそう言う相手に、僕は視線を下に下ろす。
気になっていないといえば嘘になる。
夜な夜な自分の欲を発散させる時は、自ずと思い出してしまうのだ。駄目だと解っていても、文也から与えられた強烈な快感は僕を蝕んでいる。
「ま、もう関係無いケドね。ところでさ、飲まない?」
「は?」
突然の提案に、僕はキョトンと相手を見てしまうが相手はそんな僕を気にする様子も無くトレーで酒を配っているスタッフを呼び止めると、テキーラとお金を交換している。
「飲めるよね?」
ズイとテキーラを僕の前に置いて、僕の返事を待たずにグイとショット飲み干すと、すかさずレモンを口に運んでいる。
「飲みなよ」
ニコリと笑われ
「は、ぁ……」
訳がわからないまま、僕は差し出された酒をグイと飲み干し相手同様レモンを口にする。
「お~、いける口?」
相手は嬉しそうに言うとまたスタッフを呼び止め、今度は結構な量をテーブルに並べる。
「え?チョッ……、そんなに飲めませんけど………」
お金をスタッフに払い自分と僕の前にテキーラを並べる相手に、僕はそう呟く。
「良いじゃん付き合ってよ。最近、文也が全然相手してくんなくてムシャクシャしてんだよね。それって結局はお前のせいじゃん?」
先程と同じ様に嫌そうに口元を歪めながら僕にそう言うと、一つを手に取りグイと飲み干す。
………、相手をしない。どの事を指して言っているのだろうか?それに、それって僕のせいになるんだろか?
………、何だか解らない理由でかまられてる?
「飲みなよ~」
断りたいが、断って騒がれてもケンちゃんに迷惑がかかるよな………。それに周年のイベントだから知ってるお客さんも居るし……。
僕は、溜め息を一つ吐き出すと目の前にあるテキーラを掴む。
「そうこなくっちゃね」
相手は僕の行動にニコリと笑顔になると、三杯目を飲み干している。
この人………、酒強いんだな。
僕も、毎日ではないが茉優ちゃんと一緒によく晩飯の時は酒を飲むので弱くは無いつもりだが、テキーラをこんなに飲んだ事も無い。
……………。えぇいッ、ままよ!
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