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第9話

グラグラと目の前が揺れているのが、自分でも解る。  自分が揺れているのか、目が回っているのか解らない。  「もう、限界かな………?」  目の前で誰かがそう呟いているが、僕は視線を上げる事ができないでいる。  テキーラを何杯飲んだかは、もう解らない。  テーブルの上にある空のショットグラスを見つめるが、グラスが揺れていて数える事が出来ない。  「もしもし、迎えに来てくれない?」  目の前の相手は誰かに電話しているが、聞き取れたのはそこまででその後に何を喋っているのかも解らない。  お開きになったって事か?開放される?  早く帰って、自分のベッドに横になりたい。きっと明日は二日酔い確定だけど、それよりも何よりも先ず横になりたい。  「大丈夫?直ぐに迎えが来るからさ」  ………、ありがとうございます。結構、良い人なのかな?僕を家まで送ってくれるらしい。  ならばまだ起きとかないとな、家の場所伝えなきゃ……。  前のめりになっている体勢が少ししんどくて、僕はソファーに背中を付けて顔を上に向ける。  あ、大分マシかも………。  そのままの体勢でどの位居たのか……………。           ◇  「オイ、歩けって」  誰かに言われ僕は薄っすらと瞼を開く。  揺れているが、下はアスファルトだ。  誰かの肩に両腕それぞれ乗せて歩いている。十字架みたいな体勢だ。  家まで送ってくれたのか?顔が上げれなくて、周りの景色が認識できない。  「どん位飲ませたんだよ?」  「え?わかる訳ねーだろ」  「意識朦朧で大丈夫なのか、コイツ?」  「知らねーよ、あ、ココで良いよ」  何人いるんだ?  話をしている声を聞きながらそう思っているが、確認する事は出来ない。  僕、家の住所は言ったのか?  完全に腕を回している人達に、引きずられて移動している僕は、なすがままだ。  「楽しもうね~」  「部屋先に確保しろよ、コイツ動かねーから時間かかるぞ」  「カメラは?」  「持って来てる」  ………。何の会話をしているのか、思考が鈍くて考えられない。けれど、僕にとって良い事では無いのはなんとなく解る。  だが、体を動かそうにも酒で体を動かすのはダルく両肩をガッチリと固定されている為困難だ。  「なぁ、ちょっと」  ズルズルと再び引きずられる様に動き出した途端、後ろの服を引っ張られる感覚。  それと同時に聞き慣れた声が後ろから聞こえて、僕の動きが止まった。  「あ?何だよお前」  僕の両サイドで、僕を引きずっていた人達が、不機嫌そうに返事をしている。  「コイツ、どうした?何してる?」  「はぁ?お前には関係無ぇだろ」  「イヤ、知ってる顔だから」  グイグイと後ろに服を引かれるので、僕の足はヨロヨロと後ろに傾く。  「オイ!手ぇ離せ!」  激しく耳元で叫ばれ目をギュッと閉じてしまう。だが、服の突っ張りはそのままだ。  「文也?」  先程まで僕と酒を飲んでいた相手が、どこかから出てきて僕の服を引っ張っているであろう人物の名前を呟く。  ……………、文也?  グルグル回る頭に文也の名前がこだましている。  …………、そんなわけ無いだろ?  そんな都合良く文也がいるわけ無いし、いたとしても、僕を助けてくれるなんて事……。  「タカアキ、どういうつもりだ?」  相手に対して、文也と言われた人物は低い声で唸るように問い掛ける。  「ど、どうしているわけ?」  「質問に答えてねぇ、何してんだ?」  文也の台詞に相手も直ぐには答えられないが、次いではどもりながら  「あ、………だから、……そう彼がさ酒、飲みすぎたから、介抱しようとして、ね?」  周りにいる人達にも同意を促すように答えているが  「こんなに人数いるかよ、解散しろ、解散」  「なんで、だよ………」  文也の台詞に、相手はモゴモゴと何か呟いているが、聞き取れない。  「あ?何だよ、解散すんだろ?」  「だから、なんでこんな奴助けようとしてんだよッ!」  相手は文也の言葉に弾かれたように叫ぶ。  「……………、お前に関係あるか?」  「コイツは、文也の事騙してたんだぞ?」  「だから?……、お前は関係無ぇのに、こんな事すんのか?」  「……ッ、お、俺はただ………」  「俺に任せて解散しろ 」  「なんで……だよ」  「言う事聞けねーなら、警察呼ぶぞ」  一歩も引かない文也の言葉に、しばしの沈黙。だが、これ以上揉めても自分達に分が悪くなる事を理解したのか  「離して、そいつに預けて」  相手は諦めた様に呟くと僕の両腕から人の体温が無くなり、次いでは背中に温かさを感じる。  「お前、後悔するぞ?」  相手はそれだけ呟くと、多数の足音が僕達から遠ざかって行く。  「……………、もう、してんだよ」  と、聞こえた様な気がした。

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