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第11話

茉優ちゃんの提案から数週間。文也からの連絡は無い。  ま、解ってた事だ。  あの後、何も言わずに文也は、直ぐに自分の家に帰って行った。  帰った後に僕と茉優ちゃんの二人で話はしたけど………、僕が幾ら何故そんな提案をしたのか聞いても  『皆が幸せになる為だよ』  としか言ってくれなかった。  皆が幸せに。  なれれば一番良い事だが、なれるとは思えない。  特殊な僕達のセクシャリティに付き合ってくれる同性なんて………、いるとは思えない。  僕も、ゲイやバイ、ノーマルなら誰かを幸せに出来るのだろうか?  「………、イヤイヤ、散々試しただろ?」  ノーマルになれるように努力したけど、異性と性交渉が出来ないと自覚した時点で駄目。  ゲイも同様に、性的欲求以外は求める事が出来なくて駄目。バイも然り。  自己嫌悪、自己嫌悪、自己嫌悪で、鬱になって外出できなくなって、自殺を考えるまでになって………。  良いとこ取りが出来ない世界に生まれてきたんだから、できるところで満足すれば良かったんだよな。  彼女の茉優ちゃんを大切にしつつ、体の関係を持つ人とは………。  病気のリスクが不特定多数だと上がる怖さや、同性同士の無茶なプレイを好む人も少なく無い。遊びになればそれを顕著に出してくる人も多いのだ。だが、一人の人に絞る事はせずに、気ままに楽しめば良いだけの事。  「僕が、贅沢言ってるだけ……、なのかな?」  仕事が終わり、自分の自宅に帰る途中に、色々考える。だが、納得できる答えには到底辿り着かない。  何かが欲しければ、何かは諦めなきゃならないのか………。  はぁ。と重い溜め息を吐き出して、ポケットから自宅の鍵を取り出し、顔を上げると自宅前に文也の姿がある。  「……………え?」  僕は驚きに声を出して、その場に立ち止まる。  文也も僕に気が付いたのか、しゃがんでいる格好から立ち上がると、僕の方へ一歩を踏み出す。  「お疲れ」  「あ、あぁ……」  至って普通に声をかけられ、まともな返事ができず、喉に張り付いたような掠れた声しか出ない。  「中、入れてくんない?」  首を傾げて文也はそう呟く。  「茉優ちゃん………、いなかった?」  確か茉優ちゃんはもう仕事から帰って、自宅にいるはずだ。  「いると思うけど、お前が帰って来てからの方が良いと思って」  「………、そうか」  僕はそのまま文也の隣を通り過ぎ、玄関に鍵を差す。  「おかえり~」  ドアを開けると、いつもの茉優ちゃんの声。  「ただいま、茉優ちゃん……」  その先は言えずに、玄関で靴を脱いでいると、茉優ちゃんが玄関先まで出てくる。  「どうしたの?何か………、文也君?」  僕の後ろに文也を見つけて、茉優ちゃんは呟く。  「今晩は」  文也は茉優ちゃんにそう言って、僕の後から部屋の中に入る。  「いらっしゃい、文也君夕飯食べた?パスタだけど食べる?」  文也を捉えた彼女は、どこか嬉しそうにそう尋ねる。  「食べようか、な」  茉優ちゃんの台詞に文也は苦笑いを浮かべながら、そう答えている。  何だかこの前とは違って、茉優ちゃんに対して文也の空気が柔らかくなっている様な感覚………。  またもや三人で食卓を囲んでいる。  文也の返答次第では、これからこれが普通になるかもしれないのだ。  …………。多分、今日返事をしに来たんだよな?  手際良くテーブルに、三人分のパスタとサラダとスープが並ぶ。  「さ、食べよう」  茉優ちゃんは楽しそうにそう言って手を合わせて食べ始める。  ココ最近では、一番楽しそうだ。  三人で、何とも無く食事をする。  会話をする感じでは無いが、だからといって気まず過ぎる雰囲気でも無い。  ただ、僕だけがドキドキと緊張している感じだ。  食事が終わり、茉優ちゃんが食器を洗っている間、文也は傍らに置いていた袋を僕の傍にススと差し出す。  「?」  「この前の服、一応クリーニングしといたから」  「あ、あぁ……どうも」  まさか服を返されるとは思っていなかった。  僕は文也の服を自分のゲロで台無しにしていたので、てっきり僕のも返ってこないものと思っていたから。  文也と二人、何を話す訳でも無くお互いテレビをボーッと見ていると  「さ、話しようか」  と、茉優ちゃんがトレーにコーヒーを入れて戻ってくる。  「この前の事考えてくれたんだよね?で、今日答えを言いに来てくれたんでしょ?」  単刀直入に彼女は文也に聞いている。  その台詞に僕はキュゥと胃を掴まれる感覚。  「あぁ……、俺なりによく考えてきた」  文也は溜めるようにそう呟くと、一度僕と茉優ちゃんを見詰めて  「お前の案に乗ってやっても良い」  「本当ッ!!?」  文也の一言に途端に彼女は声を荒らげて、膝立ちになると上半身をピンと立たせる。  「あぁ、だけど一つ条件がある」  文也のトーンは変わらず、真剣そのものだ。  茉優ちゃんは、そんな文也のトーンに上げていた膝を再び下ろして座り直す。  そんな彼女を見て、次いでは僕を捉えると  「あんたの提案を呑むにあたって、俺は俺で我慢する事を止めようと思うから、この家で一緒に住む事になっても、俺が抱きたい時には晴人を抱くから。それが無理なら一緒に暮らす事は無理だ」  「なっ!!」  彼女よりも、文也の台詞に僕の方が先に反応してしまう。  吹き出しそうになってしまったコーヒーをグイと手の甲で押し込みながら反応する僕に、茉優ちゃんは至って真面目に  「大丈夫です。そういうのも含めてお願いしたから」  と、文也に返している。  そういうのも含めてって………。想定内って事かよ………。  彼女の意外な返答に、困惑しているのは僕だけじゃなかったようだ。  文也をチラリと見てみれば、まさかその提案が受け入れられるとは思っていなかった表情をしている。  「ハッ………、あんた本当に彼氏の事好きなのかよ………」  「勿論。前にも言ったけど、私は私で晴君の事が好きだから、別れるつもりは無いよ。文也君が、私も含めて受け入れてくれるのであれば、願ったり叶ったりだし。ね?」  茉優ちゃんはそう言って、僕に同意を求めてくる。  「まぁ………」  そうだね。とは断言できないが、そうなれば良いなと少なからず思ってる自分がいる事は確かだ。  「文也君の要望としてはそれが一番大事なのかな?後、話を詰めないといけないのは、金銭的な事になるけど」  それから彼女の包囲網は素早かった。  先日からずっと考えいたのだろう、家賃の事や光熱費、分担に至るまで彼女の考えを僕達に説明してくれるが、反論できる余地は無かった。  一番は家賃の問題だが、一緒に暮らす期間を先ずは短く設定して、その中で文也が本当に僕達と暮らせないと判断すれば、元の自宅に戻れるように、文也の暮らしている自宅はそのままで、こちらの家賃は払わない。  光熱費、食費については貰うが、三人で割るため今までよりはお金が浮くと説明された。  まぁ、その方法でいけば、文也が損をする事は無い。今までの家賃を払わないといけないが、今までだって払えているのだ、大丈夫だと思う。  部屋割りに関しても、僕と茉優ちゃんが住んでいる部屋は、それぞれ寝室に一部屋づつ使っていて、部屋が余ってはいない。  「晴君と一緒で問題無いと私は思うんだけど?」  「問題無い………か?」  茉優ちゃんの発言に僕は少し戸惑いながら呟く。  「晴君のベッド、セミダブルでしょ?男の人二人じゃ狭かった?なら……、下に布団でも用意しようか………」  イヤ、僕が言ってるのはそう言う事じゃ無くて………。僕と文也が一緒の部屋になるのが、如何なものかと………。  そういう感情が顔に出ていたのだろう。茉優ちゃんは文也に向き直り  「さっきの文也君の提案を受け入れるなら、その方が私は良いと思うんだけど、どうかな?」  「…………、俺は問題無いが、こいつが嫌そうだぞ?」  文也は既にもう諦めているのか、面白がっているのか、すんなりと茉優ちゃんの提案を受け入れている。  …………。僕が駄々を捏ねているから、話が進まないって事を言ってるんだよね。  となれば、僕に拒否権があるはず無い。  「解ったよ……、僕も問題無い」  そうして、奇妙な三人暮らしが幕を開ける事になった。

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