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第12話

 三人暮らしが始まって思った事は、意外に上手くいっている事だ。  なんらかしらの問題が出てくるのでは?と危惧していが、呆気ないほど何も無い。  文也は家事に対しても積極的に動くし、茉優ちゃんとの関係も今の所問題は無さそうだ。  ただ………、本当に強いて言うなら、僕と文也だ。  文也は宣言通り、何かあれば僕と事を起こそうとするが、僕が頑なにそれを拒否している。  僕としては、やはり茉優ちゃんの隣の部屋で文也とそういう事になったら気まずいし、何より………、声が…………。  普通の防音では無い部屋の壁だ。聞かれたくないっていうのが一番ある。  音を吸収するパッドみたいなのを部屋中に貼れば良いのだろうが、そこまでして文也と事を起こそうとは思わない。  なのでいつも寝る時は、文也と攻防戦を繰り広げてしまう。  「お前さ、いい加減にしろよ」  今日も今日とて、今まさにその事で文也と部屋で揉めている。  「いい加減にしろって……、ここじゃ無きゃ良いって言ってるだろ?」  「はぁ~……」  重く、怒っている雰囲気を出しながら文也が大きく溜め息を吐き出す。  「彼女が隣にいるって思うと………、解るだろ僕の気持ち!」  「お前が、声出すの我慢すれば大丈夫だって」  「それができれば苦労しないって、言ってるだろ!」  何度このやり取りをしているだろう?  僕はホテルか文也の部屋でと提案しても、文也は頑なにここでしようとする。  僕の台詞に文也はニヤリと顔を歪め  「ヘ~、我慢できないほど気持ち良いと?」  なんて、ふざけた事を言っている。  だが、事実で僕も言い返せない。  そんな僕の反応を満更でもない無い顔で見ると、グイと距離を詰めてくる。  「タオルか何かで口塞ぐか、俺がキスでもして黙らせるか、どっちが良い?」  ジリジリと僕に近付き、僕も間合いを詰められたくなくて後退りするが、背中が壁にあたると、すかさず文也の両手が僕の両側に伸びてきて腕の間に僕がすっぽりと入る形になってしまう。  文也の言葉を想像してしまった僕は、ゾクリと背中に甘い痺れを感じてしまう。  文也と一度終わった日から、僕は一人でも余り自己処理をしなくなったので溜まっているといえば、溜まっている。  文也が同じ家に住みだしてしまえば、その欲が前よりも出てしまうのはしょうが無い事で………。  「ハッ………、何想像してんの?顔付きがエロくなったけど?」  「退けよ……」  「どっち想像した?言ったら離してやる」  鼻先が付きそうなほど近くに文也の顔がある。  僕はフイと首を横に向け  「…………キス………」  呟いた途端に噛み付くように唇を奪われる。  「ンムッ………、ンン~ッ……」  強引に舌で歯列を割られ、厚みのある舌が口腔内を蹂躙する。  僕は文也の胸板を何度か力を込めて叩くが、びくともしない。  歯列の裏側を丁寧に舌でなぞられ、弱い上顎を刺激される。  息もつけないほど唇を奪われていると、僕の足の間に文也の太腿が割って入ってくる。  僕はそこで、力の限り文也を突き放す。  体重を片足で支えていた文也は、余りの勢いにふらつきながら僕から離れると、そのまま床に尻餅をつく。  「…………ッ、そんなに嫌かよ………」  口元を手の甲で拭い、僕を睨み付けながら呟くと、文也は静かに立ち上がり  「………、お前、もぅいいわ」  一言、僕にそう言葉を残して部屋から出て行く。  数秒固まっていた僕は文也の言葉を理解できずに部屋のドアを開けると、ガチャリと玄関が閉まる音が響く。  「………、もういいって、どう言う意味だよ……」  閉まった玄関を見詰めて呟くと、部屋から茉優ちゃんが顔を覗かせる。  「どうしたの?文也君、出掛けたの?」  心配そうに僕の側に近付いて、尋ねる茉優ちゃんに  「イヤ………、多分、出て行った………」  僕の台詞に茉優ちゃんは目を見開き  「え?どういう事?」  と、僕同様に閉まった玄関を振り返る。  僕は茉優ちゃんに事の説明をするのが嫌でそのまま部屋へと戻ろうとすると、手を握られてしまう。  「説明、してくれるよね?」  「………、茉優ちゃん……」  困って眉間に皺が寄るが、彼女は手を離してくれない。  「もう晴君と文也君だけの事じゃ無いよ?私も関わらせてよ」  少し寂しそうに呟かれ、僕は重たい溜め息を吐き出す。  「向こうの部屋、行こう………」  お互いに、自室を後にしダイニングへと行くと、そのまま床に腰を下ろす。  「戻って来てくれるよね?」  茉優ちゃんは不安気に僕に尋ねるが、僕は顔を下に向け  「イヤ………、無理なんじゃ無いかな……」  「なんで………」  その問いに、僕は言葉を詰まらす。  どう言えばいい?彼女に………。  「上手くいってたよね?………、そう思ってたのって、私だけかな?」  「イヤ、上手くはいってた……」  「なら……」  「僕が………」  そう、僕も腹を決めないと駄目なのだ。茉優ちゃんにもちゃんと伝えないとこれから先彼女とも上手くいかなくなってしまう。  絞り出すように言葉を吐いた僕に、茉優ちゃんは黙って待っていてくれる。  「僕が、文也を拒否ってたから……だから」  その台詞に、そっと茉優ちゃんは僕の手を握り締め  「私が居たから、拒否ってたって事かな?」  静かに呟く彼女に、僕はハッとなり顔を上げて見ると悲しそうに笑う顔とぶつかる。  「イヤ、茉優ちゃんのせいじゃ無くて………、僕が気になって………、駄目で……」  茉優ちゃんはウンウンと首を上下に振り、僕の言葉を聞いてくれている。  「晴君私ね、覚悟はできてるんだよ。じゃ無きゃ文也君にあんな提案出来ないでしょ?私じゃ埋めてあげられない事を、文也君にお願いしてるのは私だから………。晴君が文也君よりも良い人がいれば話は別だけど……、何週間か一緒に暮らしてみてどうだった?」  ………、どうだった?問題は無かった。茉優ちゃんも文也もお互いに相手の事は意識していたが、それよりも相手の事を気遣えていた。自分はどうだ?茉優ちゃんに対してはいつも通りだが、文也に対しては………。態度がきつかった様に思う………。  文也が僕に近づく度に、茉優ちゃんには知られたく無い欲が頭をもたげる。それが嫌で素っ気ない態度を取っていたように思う。  文也の体格や、体臭、僕の好きな手を見る度に、ムラムラやイライラが募っていたのは確かだ。だが、それを彼女には見られたくなかった。僕が、同性に欲情している表情や仕草を………。  「晴君が私にどう思われるのか心配だからって気持ち、解るよ。今まで一緒に暮らしてきて、同性の人と関係が終わっても私が居るからって無理してるのも………。だけどね、私を言い訳にして欲しくないんだ……」  茉優ちゃんの台詞に、僕はハッと彼女を見詰めると、意外にも笑わず真剣に僕を見詰める視線とかち合う。  「譲れないものは譲らなくて良いし、私はそのままの晴君が好きだよ?晴君も私の事を理解して一緒に居てくれてるわけでしょう?」  コクリと頷く僕に、一瞬彼女は表情を緩める。  「なら、文也君との事も私は大丈夫。あんなに晴君の事を好きでいてくれる人、これから現れないかもしれないよ?」  ……………。そうなのかも………。  拒否ってた僕の気持ちを尊重してくれて、何だかんだと言いながらも文也はここでは僕に手を出さなかった。  一緒の部屋の一緒のベッドに寝ていてもだ。夜中に何回かトイレに行って一人で抜いている文也の事も知っていたのに、僕は見ないふりを続けていた。  「…………、電話、してみる………」  おもむろに立ち上がり、僕は茉優ちゃんにそう呟いて、部屋に戻ろうとすると  「晴君も文也君の事、少しは好きだよね?」  「…………………、茉優ちゃんのとは、違うけどね………」  「色んな形があっても良いじゃん?私達みたいに、ね?」  「………、そうだね……………。おやすみ」  「ウン、おやすみなさい」  僕はそのまま自室の部屋のドアを閉める。  ベッドに腰を下ろして、サイドテーブルの上で充電していたスマホを手に取ると、文也に電話を掛けようと、電話帳を開く。  このまま僕が、連絡をしなければ本当に文也とは終わってしまうだろう。イヤ、もしかするともう駄目かもしれない。  腹を決めなきゃならない。彼女もそうしたように、僕の気持ちを文也に伝えなければ………。  彼女の様に文也は愛せない。だからと言ってもう他の同性の人と関係を結ぼうとも思わない。結ぶなら文也が良い。  甘えた事をさんざ彼にしてきたが、彼は受け入れてきてくれたのだ。  あと一歩、僕のプライドが邪魔をした。  だけど、そのプライドは必要じゃ無かったのだ。自分を守る為のものは、結局大切な人を傷付けるから。  プ、プルルルルルルッ、プルルルルルル……  呼び出し音が鳴るが、文也は電話に出てくれない。  留守電にもならずに、ずっと呼び出し音だけが鳴っている。  僕は一旦電話を切ると、ラインで話がしたいと要件だけ送って、眠れない夜を過ごした。

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