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第13話
「絶対、連れて帰って来てね?」
「解った、行ってきます」
翌日の夜。彼女と僕は仕事が終わってから文也の家に行こうという事になったが、彼女が一緒に行ってしまえばまた話がややこしくなると僕だけが行くことにした。
玄関で茉優ちゃんに見送られ、僕は文也の家に向かう。
あの後、文也からの連絡は無い。
ラインも既読が付かず放置されていて、僕は重い足取りで向かっている。
一度ならず二度も文也の事を僕は袖にしている。幾ら何でも、優しい人だったとしても、勝算は無いに等しい。
文也に対して説得するプランなんて無い。頭でグルグル考えても良い答えは思い浮かばず、直球で勝負するしか無いと、その意気込みのまま来てしまった。
不安しかない状態で文也の部屋の前まで辿り着くと、一度深呼吸してからインターフォンを押す。
ピンポーン。
応答は無い。
出掛けてるのか?
もう一度押すが、やはり反応は無くて僕は文也の部屋の前でしゃがみ込む。
帰ってくるまで、待つつもりだ。
時間が経てば経つほど、文也が遠ざかる事は解っていたから。
どの位……そうしていたのか、両膝の上に額を乗せて、腕で顔を覆っていると廊下を歩く足音で顔を上げる。
視線の先には、俯向きながら歩いている文也と文也の腕に手を絡めている一人の男性が、こちらに向かって歩いて来る。
僕は、ゴクリと喉を鳴らして、ゆっくりと立ち上がる。
まさかの光景に、声が喉に張り付いたような感覚。
昨日の今日で、まさか文也が他の人と一緒に帰って来るとは予想していなかった。
だが、それが文也にとっての答えなのかもしれない。
文也であれば、直ぐに僕以外の人を見付けられる。
外見も中身だって、良い男だと思うから。
僕が立ち上がり自分の部屋の前に誰かがいると解ったのか、文也が顔を上げて僕と視線が合うとその場で歩くのを止めてしまった。
「文也?」
隣りにいる彼が不思議そうに文也を見詰め、次いでは文也の視線を追って僕を見る。
「誰?」
訝しげに僕を見詰めながら文也に問い掛けると、その言葉に文也はハッとし
「知らない」
冷たく僕を見詰めたまま呟き、また一歩づつ歩き始める。
「え?知らないって………」
隣にいた彼は文也の台詞に戸惑いながらも、文也と一緒に僕に近付いてくる。
「邪魔だから、退いて貰えませんか?」
「文也………、あのさ、話がしたくて……」
「俺には無いんで」
玄関先で対峙して、会話をしようとするが文也は僕にキツくそう発すると、僕を無視して鍵穴に鍵を差し込む。
隣の彼も気まずそうに、こちらをチラチラと見ているが僕はそれどころでは無い。
文也を中心に隣の彼が右側、僕は左側で、文也はドアノブを回すと玄関をグイと右側に引く。
このまま話もせずに終わってしまうのか?と、一瞬文也の態度に怯んでしまうが、僕は文也の左腕を掴むと
「僕が悪かったッ!僕は………まだお前を諦めたく無い……」
ギュッと目を瞑り、叫んだ僕の声だけが辺りに響く。
「え、ヤバくね?」
なんの事か解らない隣の彼はご近所の事を言ってるのか、僕がヤバい奴だと思ったのか………、その両方だと思うが、呟く。
目を瞑って言った為、文也がどういう表情で僕を見ていたのか解らず急に不安になって恐る恐る目を開こうとすると、頭の上からはぁ~~~。と大きな溜め息が聞こえて、僕は再びギュッと目を瞑ってしまう。
その直後、掴んだ腕をそのままブンッと振られ、僕はバランスを崩しながら玄関内へと入ってしまう。
直後文也に抱き締められたと思った時には、ガチャリと玄関が閉まる音。
「は?………はぁ!?ちょっと、どういう事だよッ!!」
次いでは直ぐに、文也の隣にいた彼の叫びが外から聞こえたと思うと
「死ねよッ!!!」
ガンッ!と足でドアを蹴る音の後に、部屋から遠ざかって行く足音が聞こえる。
「はぁ………、もうここ住めねーな」
「…………、ごめん」
僕の肩口に額を付けて呟く文也の台詞に、僕は申し訳なくて小さく呟く。
文也はしばらく何も言わずに僕の体に体重を預けて抱き締めているので、僕も何も言えずにそっと背中に両腕を回す。
僕も抱き締め返した事で、ボソボソと文也が呟くが何を言っているのか解らずに肩口に乗っている額に、くっつくように耳を傾ける。
「な、何?」
僕が、耳をくっつけると文也はもう一度小さく呟く。
「もう、………離してやれねーぞ?それにお前から来たんだからな……、責任、取れよ」
拗ねた子供のようにブツブツと言う文也の台詞に、僕はハァッ。と安堵の笑いを含ませながら
「うん、そうする………。ゴメンな………、ありがとう文也………」
回した腕に力を入れてギュッとすると、肩口に当たっていた額がゆっくりと上を向く。
そうして僕と視線が絡むと、そのまま文也の顔が近付くので、その速度と一緒に僕は目を閉じる。
柔らかな唇が僕の唇に触れると、何度かついばまれる。角度を変えてゆっくりと吸われると今度はチロリと舌が唇を舐めるように動くので、僕は薄っすらと唇を開いていく。
「……………、良いよな?」
一度唇が離れて、僕に確認する文也の表情は完全に欲情していて、その表情に僕も煽られてしまう。
何も言えずにいる僕は、回した腕に力を込めてグイと自分の方に引き寄せると、そのまま唇を開き自分から文也の口腔内に舌を差し込む。
言葉を交わさなくてもそれが合図になったのか、僕を抱き締めていた手が僕の服の中に入ってきて肌を弄る。
もう一方の手はガッチリと僕の項に充てがわれて、そのまま僕は固定され壁に押し付けられる。
「ンぅッ……、文ッ……や、……フゥッ……」
口付けの合間に、ここは玄関先だと言おうとするが、唇が離れる度に執拗に追いかけて塞がれるので、言葉を紡ぐ事も出来ない。
着ている服も首元までたくし上げられ、あらわになった乳首を親指で潰される。
「チョッ……!文也ッ………ンン~~……ッ、……玄関……ッ」
何とか外した唇で玄関とだけ言えた僕の台詞に文也は急にピタリと動作を止めて僕の顔を見詰めると
「………、部屋なら良いのか?」
悪い顔付きで僕に呟き、おもむろに両手で僕の腰を掴むとグイと自分の方に引き寄せる。
掴まれた僕の腰は、文也のパンツの中で勃ち上がっているモノにぶつかり、息を飲んでしまう。
「ハッ……、お互いガチガチだな」
……………。そうだ。僕のモノも久し振りに与えられる快感に勃起している。
グリグリとお互いのモノが布越しにぶつかり合い、僕は息が上がるとそんな僕を見て文也が唇を舐めながら
「止めてはもう無しだからな」
興奮に声が枯れているのか、腰にあてていた手から僕の手首を掴み直すとグイと部屋へと誘導される。
「アッ、ま、待って……!靴………」
靴を脱ぐ暇を与えられず、そのまま僕は部屋の中へと入って行く。
寝室に入ってからも執拗にキスをされながら徐々にベッドの方へと追いやられて行くが、僕はグッと手の平で文也の胸板を押し返すと
「待たねぇって言っただろ?」
僕の反応に文也は苛つきながら服を脱がそうとするが
「ま、待ってッ!……ッ、準備、してないから……」
僕の台詞に、ピタリと動作を止めた文也は次いではハァ~ッと溜め息を吐き出し
「……………、解った待ってやる……」
グッと堪えたように呟くと僕を腕の中から離してくれた。
僕は、文也から離れると急いでバスルームへ行くと、抱かれるための準備をする。
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