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第16話

今日は引っ越してから一年経ったと言う事で、ささやかながら三人でお祝いをしようという事になっている。  私と文君で料理を作って、晴君が帰りがけにケーキを買って帰るという流れだ。  ちょっと良いものをという事で、私と文君は今デパ地下に来ていて色々物色中。  「お、いい肉。これ買お」  「何作るか決めてる感じ?」  「まぁ、だいたいは、な」  文君の作る料理は、お世辞抜きで美味しい。できれば毎日食べたい位。  私は今日は補佐役として、文君が作る料理のサポートをする。  文君にはお前も作れと言われているが、晴君を味方につけてサポート役に徹すると宣言している。  文君は必要な食材をテンポ良くカゴの中に入れていく。  私はその後に付いて回るだけ。  必要な買い物が終わりデパートを後にした私達は、近くのカフェで少し遅めの昼食をしようと店内に入る。  「疲れたな~」  「もう?早いよ~」  「………、睡眠不足なもんで……」  「やっぱり!隈酷いよ?編集もいいけど、寝ないと駄目だよ」  やはり寝不足だった文君にチクリと小言を言ってしまう。何だか、お姉ちゃんみたいだなと言いながら思ってしまう。  ケド、弟がいたらこんな感じなのかな……?なんて。  私には姉が一人いるが、仲が良いとは言えない。私よりも出来の良い姉の事を両親共に目にかけていて、姉も私の事は空気みたいに扱っていた。  高校卒業と同時に嫌だった家を出て、LGBTQのイベントで晴君と出合った。  イベントは前々から興味があって、ケド行く勇気が無かったのだが一人暮らしを始めた時に何か行動を起こさないとと、何かに駆られるように行った事を覚えている。  あの時に行かなければ、晴君とも出会ってなかったかもしれないから。人との縁は不思議だなとつくづく思う。  「お待たせしました」  スタッフさんが持ってきてくれたランチを食べながら、文君と他愛も無い会話を楽しんでいる。  と、後ろから  「茉優じゃん?」  聞き覚えのある声が私の名前を呼んでいるので、首だけ後ろに振り返ると  「あ………」  高校の時に一時期仲良くしていたグループの三人が、私の後ろに立っていて………。  「久し振り………」  よりにもよってこんな時に会わなくても……、なんて表情には出さず口角を無理矢理押し上げて挨拶する。  「久し振り~!マジ元気?」  私と久し振りに会って声をかけたって感じではない。どちらかというと私の目の前に座っている文君を強く意識している。  私に話しかけながも、チラチラと文君を見ているから。  「誰?」  文君もその視線には気付いていて、彼女達に解らないように小さく溜め息を吐き出した後、社交辞令のように私に訪ねてくれる。  「高校の時の、同級生……」  「初めまして~、茉優の彼氏さんですか?」  三人いる中でも、リーダー格のユリがすかさず文君に声をかけている。  ユリの質問に文君は答えずペコリと会釈しただけで、状況を見ているみたいだ。  質問に答えが返ってこなくても、ユリは気にする事なく話し始める。  「茉優メッチャイケメンの彼氏じゃん!羨ましい~」  「てか、あの病気直ったの?」  「病気ってあんた、酷く無い?」  高校の時にさんざ私が異性とセックスしない事を、心配する振りして馬鹿にしていた人達。  私よりも自分達の方が上だと常からマウントを取ってきていたから、今もクスクスと笑いながらそういう事が言えるのだ。  「病気じゃ無いし、彼とはもう一年の付き合いになるから!ね?」  心の中でごめんなさい。と呟きながら、文君に同意を求めると  「まぁ、そうだな。今日はお祝いするし」  文君の台詞に、一瞬にして三人共固まっている。  まさか本当に文君が私の彼氏とは思っていなかったようだ。  まぁ、実際に彼氏では無いけれど………。  「そ、そうなの?……、じゃぁ、あの病気は克服したんだ?」  「だから、病気じゃ無いって」  「茉優、病気だったんだ?」  悪い顔をしながら、文君は私に聞いてくる。なぜだか彼は面白そうに笑いながら。  私は、からかわないで!と文君に視線を送っていると  「そうなんですよ~高校の時は茉優、全然男の人とできなくて~心配してたんだよね?私達」  三人共、ウンウン。と首を上下に振って面白がっているが  「あ~~~、それ俺が貰ったから問題無いしな。むしろ初めて貰って嬉しかったけど?」  「ちょっと!」  何、変な事言いまくってんのよ!と、テーブルに置かれた文君の腕をパシンッと叩く。  「もう俺が居るんで、心配しなくても大丈夫ですよ?」  なんてこれ以上話す事は無いだろうと、笑っているのに目が笑わない笑顔で文君は彼女達を黙らせる。  「で、デスよね!ごめんね茉優邪魔して、また今度ご飯でも行こう、ね?」  「うん、またね」  私の台詞を無視して彼女達は、文君に会釈すると、ススス~っとフェードアウトしていく。  「………、何アレ……」  店を出て行く同級生に向かって、文君は嫌そうに眉間に皺を寄せながら呟く。  「ごめんね、不快な思いさせて……」  私は苦笑いを浮かべて謝ると  「何でお前が謝るわけ?」  「あ、ハハッ……」  「笑ってんじゃねーよ」  私が笑うと呆れたように、けれどどこか怒っている口振りで呟かれ  「お前の周りは、あんなのばっかだったんだ?」  「え?」  思いもよらない文君からの言葉に、私は彼を見てしまう。  「イヤ………、病気とか何とか……」  「ね。意味解んないでしょ?異性と関係できないのは、あの人達にとったら病気らしくて………ま、昔からよく言われてたから慣れたけどね」  「慣れんなや」  「ケド、説明したところで理解してくれる人は少ないからさ……」  そう、私のセクシャリティを理解してくれる人は極端に少ない。  アセクシャルで異性と性交渉出来ないと解ると、冷たい人間だと勝手にレッテルを貼って近寄らなくなる人も多い。  説明してもそれなのだ。  当時、自分のセクシャリティも解らず悩んでいた時、人にも説明できないとなおの事私みたいな人は爪弾きにされる。  皆自分と違うと、理解できないという理由で途端に見てくれなくなる。理解しようとしてくれなくなる。受け入れてくれなくなる。  これが今まで経験してきた事だ。  だから隠すし、皆と同じようになろうと同じ方向を無理矢理向こうとする。  けれどそれは結局自分を殺しているのと同じで、心と体のバランスを無くしてしまうのだ。  だから、LGBTQみたいなイベントに参加すれば少なくともそこの人達には受け入れて貰える。それで自分を保っていられる。  「まぁ、少ねーケド………」  文君も私の言葉に同意してくれるが彼は彼なりの考えがあるし、生きてきたものがある。だから私の考えだけを押し付けてもいけないのは理解しているが………。  「病気は、酷いよね」  ニコリと笑って話題を変えた私を、文君はまだ何か言いたそうに見ていたがその先を言ってくれる事は無かった。

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