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第2話
今日から高二。つるんでたヤツらとは離れ、俺だけ一人別クラスになった。
知らない顔ぶればかりの教室に、少しの不安と少しの期待で足を踏み入れる。
『あー……だる。またコイツと同じクラスかよ……』
ニコニコ笑顔で友達と会話をしながら悪態をつくヤツ。
『どうしよう……一人ぼっちになっちゃう……早く友達作らなきゃ……』
見るからにオロオロして不安そうな子。
さて、誰と友達になろうかなと教室内を物色した。
表の声と心がなるべく同じ人を、俺はいつものように探す。
それはもう癖みたいなものだった。
友達として付き合っていけば、なにかしら聞きたくない心も聞こえてくる。
それでも、初めが肝心だ。少しでも誠実なヤツと友達になりたい。
できれば、あまり心がうるさくないヤツがいい。
心の声は思いの強さで音量が変わる。
いつでも熱いガツガツしたヤツは、心の声も常にうるさい。そいうのはしんどいから遠慮したい。
座席表を見て、とりあえず自分の席に座った。
みんなの表の声と心の一致具合を確認しながら見渡していると、心が聞こえてこない男がいた。
聞こえないってすげぇな、と思って興味がわく。
思いが弱いものは、かすかにしか聞こえない。
あれが食べたい、あー眠い、そういうくだらないものは、かすかにしか聞こえない。だから聞きたいときはあえて心を読む、見る、そんな感じだ。
でも全く聞こえてこないってめずらしい。
本を読んでいるからだろうか。
大抵本を読んでる人は内容が聞こえてくる。想像力豊かな人は物語が映像で見えてくることもある。
静かに本を読んでいるその男は、正直に言って本が全く似合わない。ちょっと厳つい感じで座っていても背が高いとわかる。短髪の黒髪は見るからに硬そうだ。
全体的に……そう、まるでヤンキーが面接前に黒髪に染めました、みたいな容姿の男だった。でも制服は気崩してないから、なんだかちぐはぐな感じがする。
俺は背が低いのがコンプレックスで猫っ毛の茶髪。くせ毛でふわふわしている。心が聞こえないことに加えて自分とは正反対なこの男が、なんだか気になる。
俺は席を立って男に近づいた。前の席に後ろ向き座って向き合うと、笑顔で話しかける。
「なあ、もしかして友達みんなと離れちゃったクチ? 俺もなんだよね」
本を読んでいた男は顔を上げて俺を見た。
おお、眼力すごいな、イケメンじゃん。眉間のシワがちょっと気になるけど、第一印象完璧だ。
「友達はいない。いらない」
『なんだコイツ、ウザイな』
速攻でシャットアウトされた。
友達いらないって。逆にどんなヤツだよ? と俄然興味がわく。
「マジかー。友達いらねぇの? えー友達になろうよ。俺、野間っつーんだ。あんたは?」
「しつこい。友達はいらない」
『なんだコイツは……。なんで食い下がってくるんだ。寄らないでくれ……頼むから……』
男はまた顔を下げ、本に視線を戻した。
あれ、なんか一匹狼的な感じかと思ったらちょっと違うっぽい。
寄らないでくれ頼むからって、なんかちょっと寂しそうな響きだった。そんな風に言われちゃうと寄りたくなっちゃうよね。
いやでも、これだけ近づいても心がかすかにしか聞こえないなんて、本当にめずらしい。
そんなことを思っていたら、男が突然顔を上げて目を見開いた。
「ん? え、どした?」
「お前いま……」
「ん?」
なになに、どうした?
俺なんか変なこと言ったっけ?
『いや……まさか……気のせいだ、聞き間違いだ……』
男の心がざわついていた。
ん? なにを聞き間違えた?
急にどうしたんだ?
俺を見る男の顔が、どんどん青くなっていく。
「なあ、顔真っ青だけど……大丈夫か? 保健室行く?」
さすがに心配になって立ち上がり、「大丈夫か?」と肩に手をふれると、まるでさわるなと言わんばかりに振り払われた。
「な、なんだよ。ただ心配しただけじゃんか」
と文句を言ったとき、チャイムと同時に担任が教室に入ってきた。
「……なあ、ほんと保健室行ったほうがよくね?」
『なんだコイツ、なんで……うそだろ……』
男はなにも答えず、青い顔で穴が飽きそうなほど俺を見てくる。
「おいそこ、早く席に着け」
「あ、はい、すんません」
俺が離れて自分の席に着いても、男は俺から目を離さない。
心を読んでも、なんで、うそだろ、そればかりだ。
わけがわからなかった。
ただ、俺を見るあの目は、昔見たことがある。
俺がまだ心の声に普通に返事をしていた頃の、俺を見る両親の目。友達の目。
あれと同じだ……。なぜ……?
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