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第22話

『……黒木……もう、頼むから……それ学校ではやめてくんねぇ……?』  次の日。一時間目の授業から、俺は泣きそうになって心の声で黒木に頼み込んだ。   『……無理だな』 『なんでだよっ!』 『それはだからお前が可愛――――』 『わぁぁぁーーーっっ!!』  俺が叫ぶと、黒木は頭を両手でおさえて眉間にシワを寄せた。  知らねぇよっ。怒ったって謝んないからなっ。  そう毒づくと、すぐに柔らかい表情で俺を見てクッと笑う。  俺はドキッとして、慌てて教科書に視線を落とした。  もう本当に顔面偏差値なんとかしろっ。  昨日黒木に抱かれたときに『可愛い』を浴びまくったおかげで、今日の俺は大変なことになってんだ。  黒木の『可愛い』が聞こえるだけで…………勃っちゃうんだってば……っっ!  そして『可愛い』だけじゃない。映像もだ。  昨日のあれやこれやの映像が、時々パッと見えてくる。   俺はそのたびに顔がかぁっと熱くなって下は勃っちゃうし、もう授業どころじゃなくて泣きそうだ。 『いや映像は野間の方が多いだだろう』 『……う、うっさいっっ!』  自分が思い出してる分にはまだ大丈夫なのに、黒木が思い出してると思うと身体が熱くなる。 『ほんと可愛い……野間……』 『だ……っ、だからっ、学校ではやめろってば……っ!』  なんで可愛いって言われると胸がわーってなって嬉しくなっちゃうんだろ。……ほらまた勃ってきた……っ。  まわりに気づかれないように、俺はできるだけ前かがみになる。  ほんと、どうしてくれんのこれっ! 『野間、トイレで一回出してやろうか?』  黒木がとんでもないことを言い出した。 『は……はぁぁっ?! な、何言ってんだっ?!』 『そうすれば少しはおさまるだろ』 『ば、バカじゃねぇのっ?! 学校でんなことできるわけねぇだろっ!』 『トイレだぞ?』 『こ……、声出ちゃうだろっっ!!』  黒木が下を向いて肩を震わせた。 『……お前……あんまり笑わすなって』 『……お、お前やっぱり絶対いじめっ子だろっっ! もう嫌いだ黒木なんかっっ! 大っ嫌いだっっ!』  俺は叫んで机に突っ伏した。  なんであんな意地悪言うんだよっ。出してやるかとか……ほんと何言ってんのっ!?  俺は昨日黒木に出してもらったときのことを思い出す。  あんな……あんな声でんのにっ。黒木だってわかってるくせにっ。  じゃあやってって言ったらほんとにやるつもりかよっ。  なんて思ったらもうダメだった。想像したら俺のオレがもっと元気になってもう隠しきれないくらいになってきた。  やべぇってやべぇってここ学校だってばっ!  一列はさんでななめ後ろの黒木が、クックッと笑ってるのがここまで聞こえてきた。 『……え、なに、黒木笑ってる……怖……』 『誰、授業中に笑ってんの。……え、黒木?』 『黒木やば……怖……』  黒木のまわりがざわついていた。  黒木がやばいヤツになってる。  おかしくて吹き出しそうになった。自業自得だざまあみろ、と振り返って黒木を見ると、俺を見てふわっと笑った。 『誰のせいだよ。……はぁもう、お前ほんと可愛い……』  笑顔と可愛いのダブル攻撃に、俺は完全やられて心臓がバクバクした。  身体中が沸騰したように熱くなる。やばい……今度こそ心臓破裂する……。  気づけばまわりの女子が数人、黒木に目が釘付けになっていた。『黒木の笑顔やばっ』『え……なにあれカッコイイ』飛び交う心の声に、俺は優越感にひたった。あれは俺にしか見せない黒木なんだからなっ。  休み時間になって、黒木がめずらしく俺のところまでやってきた。 「野間、これ着とけ」  とカーディガンを俺に渡す。 「え? いや、暑いからいらねぇけど……」 『ダボダボだから、羽織っとけば目立たないだろ』 『目立たないってなにが?』  黒木は答えずに、目線で俺の股間を指した。  あ、ああ、おお! そういうことか! 「あ、やっぱなんか寒いから借りるわっ。サンキュー黒木」  カーディガンを羽織ると見事なほどダボダボで、やばくなったらさっと前を合わせれば完全に隠れる長さだった。  おお、すげぇ。これでまわりにバレないかヒヤヒヤせずに済む。 『……いや、てか黒木が思い出したり可愛いって言わなきゃいいことなんだけどっ!』 『…………無理だから貸すんだ』  言ったそばからパッと俺が抱かれてる映像が見えてきて、さっそくカーディガンのお世話になった。  もうほんと無理。自分が喘いでるとこ見せられるってなんの罰ゲームだよ……。黒木がそれを思い出してると思うと、恥ずくてマジ死にそうなんだけどっ。 『……すまん。なるべく、努力する』  困った顔で謝る黒木に、なぜか俺の胸はわーっとなった。  それって、努力しなかったらもっとすごいってことだよな。  逃げだしたくなるくらい恥ずくて死にそうだし、人前で勃っちゃうのは困るけど、嫌かって言われたら……全然嫌じゃない。……ってか嬉しい。  俺が昨日の黒木を思い出すのと同じように、黒木も俺を思い出してくれてるのが嬉しい。……めっちゃ恥ずいけど。    

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