41 / 83

第41話

 黒木は次の日、学校に来なかった。  電話をかけても出ないし、メッセージも既読にすらならない  そんなことは初めてで、不安でいてもたってもいられない。 「先生!」 「おお、野間。どうした?」 「黒木、なんで休み? なんかあったの?!」 「え? ああ黒木な。体調不良ではないぞ。まあ家庭の事情だな」 「家庭の事情……?」  いままでずっと一人で暮らしてた黒木が、家庭の事情で休み……?  もうそれがすでに普通じゃない。きっとなんかあったんだ。 「なあ先生っ、欠席の連絡って誰からきたの? 黒木?」  黒木の無事だけでも確認したかった。   「家の人からだ」 「家の人って誰! 黒木どこにいんのっ?!」 「おいおい、どうした野間……」 『大人だったのは間違いないだろうが、受けたのは俺じゃないしな……』 「だって黒木っ、電話にも出ねぇしメッセージも既読になんねぇし、昨日は家にも帰ってこなかったしっ。こんなこと初めてだから……っ」  昨日は何かあったら電話しろって言ってたのに、今日になったら連絡がつかないなんて変だろ。  まだ小学生だった黒木を家から追い出すような親だ。まともじゃない。  黒木……っ。いまどこにいんの? 無事なのか? 連絡くれよ……っ。 『野間と黒木はベッタリだと思ってたが、なにも聞いてないみたいだな……』  先生の心の声に思わず反応した。  黒木が心配で、もう黒木のことしか頭になかった。 「先生! なにか知ってんの? 教えてよ!」 「え、なにかって? なんのことだ? なにも知らないよ」 『黒木がアメリカに転校させられるかもなんて勝手に話せないよなぁ。まだ決定でもないし……』  アメリカに転校……?  愕然として血の気が引いていく。  なにそれ……どういうことだよ……。  俺もう黒木に会えないのか……?  きっとひどい顔をしてるだろうけど、隠す余裕なんてなかった。   『いやでも黒木が野間に話さないなんてあるか? まだなんとかなりそうだから黙ってるのかもな……』  先生の言葉にどこか引っかかった。  昨日黒木も電話でそんなこと言っていなかったっけ……。  『まだなんとかなるかも』って、よく聞こえなかったけどそう言ってた気がする。……転校のことだったのか?   「もしかして……俺もう黒木に会えないの?」  先生に問いかけた。先生の返事は期待してない。  先生の心の声に期待した。 「そんなことはないだろう。きっと夏休み明けには元気に学校に来るさ」 『まだ決定じゃないとはいえ明日アメリカに出発なんだよな……いやこれ勝手に言えないよな……』  明日出発?!  なんだよそれっ!! 「何時?!」 『十八時発だったかな。……え?』 「え? 野間いま……」    十八時発のどこ行きだ?!  アメリカっつってもいっぱいあんじゃねぇ?  会えるかな……会えなかったらどうしよう……!  涙がにじんできたけど俺は放置した。どうでもよかった。いまはとにかく黒木に会ってちゃんと話を聞きたい……!   『野間……なんで……何時って……え? いやまさか……』 「……先生、いま何時? ってば」 「え? あ、ああ、もうすぐ授業始まるから早く戻れ。あ、ほら予鈴鳴ったぞ」 「……うん」 『なんだ……いまの時間を聞いたのか……。タイミングよすぎて鳥肌たったぞ……』  先生に背中を向けて歩き出す。  あふれた涙が流れ落ちるのを感じたけど、もうどうでもよかった。  黒木のいない学校なんてもう帰りたい。  明日は絶対、空港で黒木を待ち伏せするんだ。    「あ、そうだ野間」  先生に呼び止められて足を止めた。 「あのな。昨日の夜、黒木から電話もらったんだけどな」 「えっ?」  思わず振り返ると、先生は俺を見てギョッとした顔をする。「おいおい、泣きすぎだろう」とポケットから取り出したハンカチを手渡してきた。 「先生、黒木から電話ってっ?」 「あ、ああ。ちょっと話があってな。昨日の電話、そういえば携帯からじゃなかったよ。なんか事情があって使えないのかもな?」  昨日、俺と電話したときはスマホだった。  そのあとなにかあったのか?  スマホが使えないだけなのか? 「先生、黒木の話ってなんだったのっ?」 「それは個人情報だから話せないけどな。悪いな」 『すごい必死だったな……。書類の名前は俺の署名じゃないから絶対に受理するなって……』  書類ってなんの? 転校の?  じゃあ先生が手続きを止めてくれてるってこと……?  なんだよ、先生いいヤツじゃん。  でも……それでもダメだったら転校なのか……。  転校先がアメリカって……なんだそれ。遠すぎだろ……。  黒木ともう会えないかもと思うと、涙が止まらない。 「野間大丈夫か?」 『黒木と連絡がつかないだけで泣いてるのか……? まるで転校の話を知ってて泣いてるみたいで怖いな……』    連絡がつかないだけで泣いてるように見える俺は、さぞかしおかしいヤツなんだろうな。    「……黒木、昨日なんか変だったから。なんかあったのかもって思って。心配なんだ」 「そうか。あんまり心配するな、きっと大丈夫だよ」 『野間は本当に黒木が好きなんだなぁ……。黒木はどうにかするって息巻いてたし……きっと忙しいんだろうな』  ……先生もっとわかりやすく言ってくんねぇかな。それじゃ全然わかんねぇ。  黒木が明日アメリカに行って、転校をどうにかするってことなのか?  それとも行かなくてもいいように、どうにかすんの?  もう全然わかんねぇ。黒木と話したい。  黒木に会ってちゃんと説明してほしい。  俺に会わずに行っちゃうつもりなのか……?

ともだちにシェアしよう!