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第63話〈黒木〉※
俺はスーツをすべて脱ぎ捨て、野間のTシャツをはぎ取った。
このまま抱いてしまうと本当に暴走しそうだ。野間を傷つけそうで怖い。
すぐにも野間の中に入りたい衝動を抑えて、俺は野間に口付けをした。
「……ぅんっ、ぁ……っ、くろき……」
『俺そんなやわじゃねぇから大丈夫だって……。俺も……すぐ入れてほしい。はやく黒木とつながりてぇっんだってば……』
俺を熱い視線で見つめてくる野間の心は、この先の期待でいっぱいだった。
脳内ダダ漏れ状態の野間を抱くのはこういうことかと諦めのため息を漏らし、むさぼるようにキスを繰り返した。
『こういうことかってなに……』
「ん……っ、んぅ……」
『……可愛すぎるってことだ』
『えぇ……なんか違ぇだろ……』
「あっ、はぁ……っ、……んっ、……アッ……」
唇は離さず、手だけで野間の身体を愛撫した。
ちょっと離すだけで『あ……キス……』と寂しそうな声が聞こえてくるからやめられなかった。
入れてほしいのにキスはやめるなと、俺はずいぶん難しいことを要求されているなと苦笑した。これじゃ準備もできやしない。
『う……そっか、ごめん』
『ほんと野間は可愛いな、って意味だぞ?』
「……ん」
なごり惜しそうに唇を離す野間がまた可愛いから参る。
上半身を起こして手を伸ばし、ヘッドボードからローションを手に取った。
中身を手に出し野間の後ろにさわろうとして、野間の心の声に思わず笑った。
『キスしたい……は、もうしつこいよな。そうだよ、しつこいだろ。はぁ……なんでこんなキスしていたいんだろ……。もう黒木が好きすぎる……どうしよう、俺うざいかも。一日中キスねだっちゃいそう……嫌われないかな……』
バカだな。そんなの可愛いだけだろう。
手の中のローションがこぼれないように気をつけながら、野間の唇にキスをする。
「……んっ……」
「お前がキスが大好きなのは、もう充分知ってる」
「そ……か。そ、だよな。……あっ、……んンッ」
『黒木の指……久しぶり……っ』
野間の後ろはずいぶんとキツかった。
一ヶ月ぶりだからか。いままでは長くても五日以上開けたことなかったからな。
「あ……っ、ぁ……くろ、……んんっ……」
『後ろ、キツいの?』
「ああ、ちょっとキツい。少しゆっくりほぐすな」
『え……大丈夫だって。初めてじゃねぇんだし』
野間の心が、はやくはやくと訴えてくる。
「そういうわけにはいかないだろ」
「ん……っ、あ……っ、あっ」
『うそだろ……はやく黒木がほしいのに……。やっぱりあんとき、イジっとけばよかった……』
聞き捨てならない野間のセリフに思わず手が止まった。
なんだ、あんときって。
「……んぇっ? い、いや、なんでもねぇよ……」
「イジっとけばよかったってなんだよ」
「な、なんでもねぇってばっ!」
怒るように怒鳴った野間の顔は真っ赤で恥ずかしそうだった。
……あ、もしかして一人でやるとき、後ろもイジろうとした?
野間が腕で顔を隠して横を向く。
「……一人でなんて……やる気分にもならなかった……」
『でも黒木クッション初めて抱いた日はちょっとだけムラっとして……』
黒木クッション?
俺が首をかしげると『……脳内ダダ漏れじゃ……どうせ隠すの無理か……』と、まるで俺に見せるように映像を流してきた。
見覚えのある青いシャツが立体的にベッドに転がっている。ズズッと鼻をすする音と「黒木……」という野間のつぶやきが聞こえて暗転。たぶん抱きしめて顔をうずめたんだろう。
俺のシャツをクッションに着せたのか?
それを抱きしめてたのか?
なんだそれ……。あまりにも可愛すぎて、俺の身体が一気に熱くなる。
ちょっといまの映像保存しておきたいな……。
クッションを抱いて泣いてる野間に、俺の胸もせつなくなった。
「会えねぇの、寂しすぎて。毎日黒木クッションと一緒に寝た……」
「そ……そうか」
そんな可愛い告白、ますます暴走しそうになるだろう。
「初めて黒木クッションと寝た日、ちょっとだけムラっとして……後ろイジろうかと思ったんだけどさ……」
「思ったけど、イジらなかったのか?」
「……だって……もう二度と黒木に抱いてもらえねぇって思ってたから……むなしくなってやめたんだ」
『やっぱイジっとけばよかった……』
野間が一人でやる気分にもならなかったのは、自惚れじゃなくても俺のせいだろう。
寂しさを紛らわすための黒木クッション……可愛すぎ。なんで野間はやることなすこと、こんなに可愛いんだ。
「野間、お前の後ろはもう俺専用な」
「……は? そんなの当たり前だろ……何言って――――」
「お前の指もダメだから。さわっていいのは俺だけな」
「んぇ……っ?」
顔を隠してる腕をつかんで外し、優しいキスをする。
何度も優しくついばむようにキスをした。
「……んっ、……ふぁ……」
『キス、嬉しい……黒木好き……』
『俺も好きだ。ちょっとだけ、キスでとろけてろ』
「……は、……んっ、……くろ……き、……アッ!」
手の動きを再開し、ゆっくりと後ろを柔らかくなるまでほぐした。その間ずっと唇を合わせ続け、野間は完全にとろけきった。
ゆっくりほぐすのも嫌がったのに、キスをすれば簡単に大人しくなる。本当に可愛すぎておかしくなりそうだ。
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