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第71話 最終話✦1

 久しぶりの一緒の登校にウキウキした。  制服で手をつなぐのは初めてで、胸がこしょばい。  マンションを出て少し歩くと、すぐに同じ制服がちらほらと目に入る。  あ……手、離さなきゃ……だよな。  そう思ったとき、岳が静かに優しく俺に聞いた。 『気にしないんじゃなかったのか?』 『……うん。全然気にしねぇけど……』 『けど?』  全然気にしないし隠す気もない。でもだからといってむやみに注目を浴びたいわけじゃない。岳を好奇の目にさらしたいわけじゃない。  ほんの一瞬すれ違うだけの見ず知らずの人ばかりが集まる空港や街なかと、学校という閉ざされた空間とじゃ話が別だ。  隠さず自然にバレるのと、見せびらかすのは全然違う。 『……そうだな。俺も徹平をわざわざ好奇の目にさらすのは嫌だ』  俺たちは目を合わせると、そっと手を離した。  学校までの道のりを並んで歩く。いままでと同じなのに全然違う。手をつなぎたい。つなぎたくてムズムズする。  岳も同じように思ってて、二人で笑った。    「あっ黒木っ。帰って来れたんだぁっ。よかったぁ!」  教室に入ると田口がすぐさま声を上げて寄ってきて、俺たちは教卓の横で立ち止まる。 「おかえり、黒木っ」 「ああ、ただいま」  岳は返事を返してから心で言った。    『田口はアメリカ行きを知ってるんだな』 『うん。知ってる』  夏休み前、残り二日の学校に、俺は泣きはらした目のまま登校して田口にすごい心配をかけた。岳がアメリカに行ったこと、戻って来られるかわからないことだけ伝えて、あとは一人で沈んでた。  夏休みもメッセージをもらっていたけど、俺はまともな返事を返してない。岳が帰ってきてからも、岳のことで頭がいっぱいで報告を失念してた。   田口は笑顔で俺の肩に優しく手を乗せる。 「よかったね、野間っ」 「田口ごめん、俺ちゃんと返信もしねぇで……」 「いや、返信はもらったよ? 『大丈夫じゃない』とか『誰にも会いたくない』って。もうほんと大丈夫かなって心配だった」 『……あ、これ言っちゃダメなやつだったかも……っ』  田口が、やばいという顔をして俺を見る。  俺は大丈夫という意味を込めてニカッと笑顔を返した。 「もう大丈夫。心配かけてごめんな? 田口」 「ううん、全然!」 『言っても大丈夫だったのかな……。あぁでも野間、ほんとすごい元気になってる。よかった!』  すごく嬉しそうに優しい笑顔を見せる田口に、ほんと良いヤツだな、と胸がジンとする。 「徹平……夏休みは誰とも遊ばなかったのか?」 『泣きはらして学校来るほどだったのか……そんなにか……』  「だって、遊べるわけねぇじゃん。寂しくて毎日泣いたって言っただろ?」    岳の声と心と、どっちにも返事をした。  それを聞いた田口の驚く心の声が聞こえる。    『え……っ、黒木いま徹平って言った。野間もなんか……いまの会話って……え?』    田口には心配かけた分、俺がいますっごい幸せだってすぐにも教えたい。できればこの会話で気づいてほしい。  本当ははっきり言っちゃいたいけど、そんなことしたら教室中が大騒ぎしそうだしな。  あ、そういえば田口が俺の気持ちを知ってること岳に話してなかった。こっちも失念。  それを聞いた岳は心で驚きつつも、いまは表の会話が優先だな、と切り替えている。 「そうか、泣いたのは聞いたがそこまでだったのか……すまん」  「んーでも、岳も同じようなもんだろ?」 「え?」 「岳もアメリカで、俺と同じ気持ちだったろ?」  ニヒヒと笑いかけると、岳はとぼけた顔で「さあな」と答えて俺の頭をポンとして、自分の席に向かった。でも歩きながら心では『同じだったよ』と甘くささやく。  うわっ。なに、学校ではそんな感じ?  全部が甘い岳よりなんかクるっ!  うーやばいっ。表情崩れるっ。  心の中で必死で悶えていると、突然田口が俺の腕をつかんだ。 「野間っ。ちょっと来てっ」 「へ? あ、田口っ」 『二人とも名前で呼びあってるっ! やっぱり両想いだったんだっ!』  田口は俺の腕をグイグイ引っ張って教室を出るとキョロキョロ見回して立ち止まる。 『あ……ダメだ。どこも人がいっぱい。どこか話せる所……っ』 「田口、こっち」  今度は俺が田口の腕を引いて、人けの少ない廊下の隅に移動した。  パラパラとしか人がいないから大丈夫だろう。 「ここならいいだろ?」    それでも田口にしてみると、ここは話ができる場所ではないようで「あ、いや、ここじゃダメっ」と首をふった。 「大丈夫。俺たち隠す気ねぇから」 「…………え?」 「って言っても、大声で宣言とかするつもりはねぇんだけどさ。バレたらバレたでそれでいいって思ってる」 「……うそだろ?」 『やっぱり二人、付き合い始めたんだ……。隠す気ないって……本気?』  田口の心から、俺たちを心配する気持ちが流れてくる。  でも俺は気づいてしまった。その裏で、妬ましい気持ちもうずまいてることに。  

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