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第72話 最終話✦2
「や……やめときなよ……。そんなことしたら……ずっとついてまわるんだよ? ずっと陰口言われるよ? ずっと……白い目で見られるよ?」
『俺が何年も悩んでそれでもできないこと、なんで二人はサラッとやろうとするの? なんでそんな勇気だせるの? なんでなんでなんで……っ。俺を飛び越えて先行くなよ……っ。なんで……俺、おめでとうって言うつもりだったのにっ。なんで……っ』
田口の心が泣いていた。
俺たちを祝福したいのにできない自分、嫉妬心でいっぱいの自分を責めて泣いていた。
俺たちも、もしかしたら同じように悩んだかもしれない。田口と同じように苦しんだかもしれない。
もしも俺たちが、こんな力を持ってない普通の人間だったなら。
みんなそれぞれ知られたくない秘密のひとつやふたつ持っていて、その重みなんてバラバラだ。
俺たちは、この力の秘密が巨大すぎて重すぎてバレるのが恐ろしすぎる。だからそれ以外はちっぽけに感じるだけなんだ。
「……田口はさ。バレたくない秘密って、それ以外にあるか?」
「……え?」
「それ、以外ある?」
『それ、って、ゲイのこと言ってる……?』
「その秘密以外に、バレたら怖いもの」
田口は心の中で、なにが言いたいんだ、と困惑しながらも「別に無い……けど」と答えた。
「俺らは、あるんだよね。もっと怖もの」
「もっと怖いもの……?」
『ゲイバレより怖いものってなに……そんなのある?』
「俺も岳もまったく同じで怖いもの。だから、それ以外はなにも怖くねぇんだ。別に陰口たたかれても白い目で見られても怖くねぇの。だから俺らは隠す気ないよ」
強い口調ではっきりとそう告げると、「……野間は……すごいね」とつぶやきうつむいた。
『俺は野間みたいに考えられない。白い目で見られることが死ぬほど怖い。でも俺……きっとうらやましいんだ。だって、真似出来ないってことが……すごい悔しい……』
真似なんてしなくていいのに。
まさか俺らの行動で田口を傷つけるなんて思いもしなかった。
ごめんな……田口。
「心配してくれて、ありがとな」
「あ……いや、ううん」
「あー……てか、もう俺らに近づかないほうがいいかもな……。田口も巻き込まれるかもだしさ」
どうバレてどう広まるか、まだ全然想像もできないけど、バレたらたぶん俺らハブられんだろうな……と思うと巻き込みたくない。
田口の目が見開いた。
「なに言って……」
『もしかして俺、余計なこと言って嫌われちゃった……?』
あ、やばい、誤解させちゃった。
「あ、って言っても、別に宣言するつもりじゃねぇからバレるかどうかもわかんねぇんだけどな? だからバレるまでは今までどおり仲良くしてよ」
イシシと笑って手を差し出すと、田口は飛びつくように手を取って握手をした。
「どうなったってずっと仲良くしてよっ。野間っ」
『野間と絶対友達やめたくない!』
田口の心の叫びに嬉しくて胸が熱くなった。たったいま妬ましい気持ちでいっぱいになったはずなのに、それでも友達でいてくれるんだ。
「田口がいいなら、もちろん」
「ほんとっ? よかったっ!」
嬉しそうに喜ぶ田口の心にウソはない。あらためてホッとした。
「……あのさ野間」
「うん?」
『おめでとうって言わなきゃ……』
心の中で葛藤してる田口を見守りながら、俺は続きを待った。
俺を連れてきてすぐに言おうとしてくれてたのに、ごめんな。田口がいままで悩んで苦しんできた分だけ、このあとの「おめでとう」が重みのある言葉になる。
もう充分伝わってるよ、田口。
「……おめでとう、野間。よかったね!」
『ちゃんと言えた……よかった……!』
「うん。ありがとう、田口」
田口の思いがたくさん詰まった「おめでとう」の言葉をかみしめて、俺は大切に胸にしまい込んだ。
昼休みになっていよいよ俺のイライラはピークに達した。
久しぶりの学校は、はっきり言って面白くない。
だって岳が女子の注目の的になってんだもん。
始業式の間も授業中も心の声がうるさかったけど、昼休みになると周りのみんなと気持ちの共有をし始めたから最悪だ。
「ねえねえ、黒木ってあんな感じだったっけ?」
「根暗な感じが全然なくなったよねっ!」
「やばい……めっちゃカッコイイんだけどっ!」
心を読むまでもない。そのまま声で聞こえてくる。
隠れてキャーキャーしたいのか聞かせたいのかどっちだよっ!
「岳。学校では眉間にシワ寄せてろよ。前みたいに」
「そんなの、やろうと思ってやってたわけじゃないから無理だ」
「じゃあもうちょっとムスッとしてろよ」
「いまのお前みたいにか?」
クッと笑って『可愛いな徹平』と心でデレる。
またあちこちでキャーキャー聞こえる。
むやみに笑うなよっ。
俺はムッとして岳の両頬をつまんで引っ張った。
「なんでお前そんな無駄にカッコイイんだよっ」
「今度父さんに会ったらそっちに文句言え。そっくりだから」
そんな話初めて聞いた。俺はパッと指を離す。
「そんなそっくりなのか?」
「ああ。久しぶりに会って俺も驚いた」
「へーっ。会うの楽しみになってきたっ」
『ほんとクルクル表情が変わって可愛いな。ふてくされてるのも可愛いが、やっぱり笑顔が一番可愛い』
岳が俺に優しく微笑んで『可愛い』を連呼するから、あっという間に機嫌が直った。
そうだよ。岳の笑顔は俺のもんじゃんっ。女子が騒いだって関係ねぇしっ。
岳が優しく微笑んで俺の頭をポンとした。
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