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第73話 最終話✦3

 いつも通りふるまっていても特に騒がれないもんだな、と何事もなく帰りのHRが終わって俺は思った。  まだ一日目だからかな。なんとなく拍子ぬけ。  でもいつも通りの俺たちのまま、バレずに過ごせるならそれが一番理想的だ。 「がーく。帰ろーぜっ!」  リュックを背負い岳の席に行って声をかけたとき、見かけない女子が三人、岳の前に並んで立った。 「黒木くんっ、ちょっと来てもらいたいんだけどっ」  またか……。と深いため息がでる。   『うっそ、先越された……』  誰かわからない心の声も聞こえて俺はますますうなだれた。 「悪いけど、話ならここでしてくれ」  冷たく突き放すような岳の言い方に、女子三人がたじろいでいる。 「えっと……ここじゃちょっと……ねぇ?」 「う、うん……ここでは話せない……かなぁ」  だからお願い、と顔の前で手を合わせる女子に岳は言った。 「好きなヤツに誤解されたくない。ここで話せないなら終わりにしてくれ」 「えっ!」  岳の言葉にクラス中の女子が声を上げた気がする。  岳がはっきり突き放してくれて、嬉しくて頬がゆるんだ。  もう女子の呼び出しにモヤモヤしなくていいんだと思うとホッとする。 「黒木くん彼女できたのっ?!」  女子の質問に岳がため息をついた。 『答えづらい質問だな。彼女じゃないから、そうだとも言えない……』  岳が困ってる。どうすっか……。めっちゃ注目浴びてるけどもう初日から宣言しちゃう?  目立ちたいわけじゃなかったけど……。  俺の心に岳が答える。 『だよな。目立ちたいわけじゃないもんな……』  そう言って女子三人を見すえた。   「付き合ってるヤツがいるんだ。だから誤解されるようなことはしたくない」  岳が答えた途端にクラス中がざわざわと騒がしくなる。「うそーっ」「やだーっ」「いつからっ?」「やっぱり……」あーもう、うっさいっ。 「付き合ってる人って誰? それ本当? だって黒木くんの周りに彼女っぽい人いないよね?」  ごもっとも。だよな、そうなるよな。だってずっと俺としかいねぇもん。   「それとも他校の子?」 「いや」 「じゃあ誰? 何年生? 何組?」  『面倒臭い……』と岳がうなだれた。  これってもしかして曖昧に終わらせたらダメなやつかも。やっぱウソじゃんってなるやつだ。  そしたらまた女子の呼び出しかかるのかな。  やだな……。 『徹平』  呼ばれて岳を見る。 『岳……』  俺はうなずいた。  もう言っちゃおう。そうしよう。どうせ隠す気なかったんだしもう開き直ろう。   まさか初日から宣言とか想像もしてなかったけど、そのほうが面倒臭くないしスッキリするかも。  あ、ならもう学校でも手つなげるじゃんっ。やったっ。  嬉しくなってニヤけると、岳がぶはっと吹き出してクックッと笑いだした。  なんだよ、なんで笑うんだよ。  急に笑いだした岳にみんながポカンとしてる。  『なんで笑ってるかわかんないけどカッコイイ』『笑顔やば……っ』『ギャップやばすぎ』女子の心がほんとうっさいっ! 『だから無駄に笑うなって岳!』 『お前が笑わすからだろう?』 『なんでっ。なにが?』 『やっぱり手つなぎたかったんじゃないか』 『は? そんなのつなぎたいに決まってんじゃんっ』  一日中つなぎたくてムズムズしてるっつうのっ。   『あぁもう、ほんと可愛くて参るな……』    と心で言いながら岳の笑いが止まらない。  だからなんで笑ってんの?    『バレちゃえばつなぐんだな?』 『バレちゃえばつなぐだろ、そりゃ。ダメなのかよ』 『いいや。ただ、そんな極端な話だったのかと思って』  岳は笑いながら、はぁ、と苦しそうに息継ぎをする。  極端……そっか。俺が見せびらかすのは違うと言ったから、もしバレても学校では手をつながないつもりだったんだ。  俺、バレるまでは我慢しようと思ってたけど……。   『……だって。バレちゃったら我慢する必要なくね?』 『そうだな。そもそも俺はずっと手をつないでいたかった』  不意打ちの甘い言葉とふわっと優しく微笑えむ岳の笑顔に、心臓がドクンとはねた。  岳ってほんと……こんなこと言うキャラじゃ絶対なかったのに。  やばい、顔あっちい……。   『じゃあバラすぞ?』 『うん。いいよ』  答えながら気がついた。  なんだ俺、本当はすぐにでも宣言したかったんだ。  いろいろごちゃごちゃ考えすぎた。俺はたとえ学校でも、周りの目とか気にせず自由でいたかったんだ。   「野間だよ」  岳の笑った顔に見とれてた女子三人は、なにを言われたのかわかっていないようだった。  誰と付き合ってるのかという自分の質問の答えだと気づくまでに時間がかかってた。 「……野間?」 「野間徹平」 「……てっぺい……え?」 「俺」  岳の横で自分を指さして俺をアピールする。 「俺らが、付き合ってんの」  イシシと笑ってやると、女子三人とクラス中がシンとなった。 『……え、さすがに冗談よね』 『女避けのためにあんなウソ? えー笑えない』 『あれはひどいわ。あの子たちかわいそう』  聞こえてくる心の声にびっくりする。  あれ? 全然本気にされてねぇや。 「……ひどい。そんなわかりきったウソまでつかなくてもいいじゃない」 「ウソじゃない。本当だ」  岳がキッパリとそう言っても三人は信じない。   そこに同じクラスの西川が近寄って来て口をはさむ。 「おい黒木ー。いくら女子避けしたいからって相手が野間はないだろー。笑えねぇって」     苦笑しながら岳の肩をたたく。 「野間もさぁ。冗談もほどほどにしろよ」  せっかく宣言しても、簡単には信じてもらえないのかと落胆した。   「本当だ」 「本当だよ」  岳と声がそろう。  岳は立ち上がると俺に手を差し出した。  俺たちは笑顔で顔を見合わせて、ぎゅっと手をつないだ。 「俺たち、本当に付き合ってる」

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